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若い子たち、性を考えて。 NPO法人「ピルコン」理事長 染矢明日香

大学時代に中絶 同じ苦しみ減らしたい

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 日本の年間中絶件数は約19万件。望まない妊娠をした女性に迫られる、産むか産まないかの選択は重く苦しい。性教育などを行うNPO法人「ピルコン」(東京)を設立した理事長の染矢明日香さん(29)=金沢市出身=は、大学在学中に経験した中絶と向き合い、同じように苦しむ人を減らそうと思いを伝え続けている。

序章

私が特別ではない

 コンドームの正しいつけ方、紹介します。ピルコンなどが2年半前、動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開した映像に、染矢さんは自ら指導役として出演した。閲覧回数は今も伸び、125万回以上に達した。

 世の中では話題にされづらい中絶の経験を、顔も名前も明かしたブログで詳しく書き、中高生向けの性教育の授業でも打ち明ける。

 「親になる資格も覚悟もないのに不用意だったのでは」という罪悪感があり、楽しい経験はすべて、命の犠牲の上に成り立っているとも思う。妊娠当時、電車で通学中につわりで気分が悪くなり、泣く泣く家に引き返したこともある。「あのつらさも、子どもがいた一つの証しだったのかな。私と子どもの一つの思い出」と今は振り返られるようになった。

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 揺れる心を正直に語って伝えたい。「私が特別ではないということ。中絶は日常的に起こっている」

 都内の高校で授業した後、教師に声を掛けられた。「中絶した子も聞いていました。彼女は『なりたい将来に向かって、できることをがんばろう』って思ったそうよ」。ずっと悩まされ続けてきた自分の経験にも意味があると思えた。

本章

命と向き合う日々

 妊娠発覚は大学3年の10月。避妊せずにセックスしたときもあったが、大丈夫だと思っていた。当時の彼氏に促され、試した妊娠検査薬は陽性だった。就職活動が本格化する直前。「産めないってぱっと浮かんだけど、中絶も想像できなかった。遠い世界の話だと思っていたから」

 駆け込んだ病院で妊娠初期だと告げられた。中絶は早い方が体への負担が少ない。発覚から17日後までに手術するかを決めてほしいと求められ、その場で手術日を予約した。

 その後も悩み、親や友人、先輩に相談。中絶への抵抗感や恐怖感もあった。彼氏との結婚も真剣に考えたが、出産すれば就職活動や一生のキャリアに影響を与えるとも思った。彼氏とずっと2人でやっていく将来も描けず、シングルマザーとして生きる勇気もなかった。

 そして中絶。孤独感に襲われた。「どうして私ばかりつらい思いをするの?」と、好きだったはずの彼氏を憎む気持ちが湧いた。そんな自分のどろどろとした感情にも嫌気が差した。

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 「自分で決断したことだけど、やっぱりしんどい」。故郷の母にメールを送った。「自分で決めた選択に、どれだけ前向きになれたかでその価値は変わるよ」。返信に救われた。

 卒業後はコンサルティング会社をへて、雑貨・化粧品メーカーに入社。念願の仕事で、社内の最優秀新人賞もつかんだが、心は満たされなかった。魅力的な商品が市場にあふれる中、自分を擦り減らしてまで新商品を生むことに価値があるのかが分からなくなった。次第にやる気を失い、朝起きられず、人と電話をすることも苦痛になった。

 自分が本当にしたいことを考えて、行き着いたのは中絶後に大学4年で仲間と結成したピルコンだった。大学の講義で中絶の多さを知り、学生ら向けに性教育の講演会などを開いていたが、就職後は忙しさで休止していた。

NPO法人ピルコンが学校やイベントで配付している資料

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 2011年春ごろ、ピルコンを再始動。恋愛や避妊について意見を交わすイベントを重ねた。ただ、集まるのは問題意識を既に持っている人や同世代ばかり。中絶件数の1割強は20歳未満。その数を減らすには、問題を知らない若い層に訴える必要性を感じた。「当事者意識のない人にも『自分に関係がある』と気づいてほしい」

伝える人を育てる

 転機は13年夏。東京都の北区保健所から依頼されて行った中高大学生向けの性感染症予防のワークショップ。年の近いお姉さんの話だからか、みな興味津々な様子で耳を傾けてくれた。一方で、20代後半となり、伝える世代として限界も感じた。「伝える人を増やす仕組みをつくろう」。同年秋、大学生や若手社会人を研修し、中高生に講座を行う「LILY(リリー)」を始めた。これまでに研修を受けたのは男女約30人。中高生と同じ目線で話そうと努力する彼らの姿を見て、やりがいを感じている。

 「命を粗末にしている」と、中絶した女性を批判する声もある。当事者として傷つくし、気をつけていても避妊に失敗することだってある。「産めないと思ったとき、安全に手術を受けられることは大事なこと。悲しいことだけれども、犯罪ではない」

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 中絶経験者の思いは社会に共有されていないと思う。「経験を語りにくい人が多くても、私なら言える」と矢面に立つ。前を向く大切さを教えてくれた母親や家族、友人が支えてくれるから。

 自分の中に命がいたことには、いとおしさも感じている。生まれていたらどんな子になっただろう。どんな思い出を一緒につくれただろう。「そう思うと、今自分がここにいることを大事にしたい」

 担当・石井真暁

 NPO法人ピルコン ピルコン(Pilcon)は「対話から学ぶ性の健康教育を広げる」を意味する英文の略称。正しい性の知識と判断力を育むことで、自分らしい豊かな人間関係を築ける社会を実現しようと、約30人が活動している。

 避妊方法だけでなく、将来設計やパートナーとのコミュニケーションの大切さ、医療・保健機関の情報なども伝えている。

 LILY(リリー=Link Life of Youth)は、大学生や若手社会人を育成し、将来を考える上で必要な避妊や性感染症についての知識を広める講座を行ってもらう取り組み。2014年度には中高校生ら約1500人に講演を行った。

 このほか、思春期の子を持つ保護者を対象に家庭での性教育を支援する講演や、性に関する独自の調査も行っている。

 

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