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富山 愛の“珍所”紀行

1月下旬に開いた初の郷土愛学習発表会は100人以上が集まり大盛況だった=富山市総曲輪で

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 北陸新幹線開業が迫り、全国から熱い視線が注がれる当地。雄大な自然や海の幸、風情ある町並みなど王道の観光も素晴らしいけれど、人知れず魅力を放つ穴場も知りたい! そんな探求心に応えてくれるのが、富山市在住の珍スポットライター、ピストン藤井さん(35)。富山県のディープスポットと心の奥底を掘り、愛も深まるデートコースを案内してもらった。(担当・押川恵理子)

魅惑のダンコチンコ

 日本海越しにそびえる立山連峰。万葉歌人、大伴家持も愛した富山県氷見市からロマンチックに出発! 

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 ご当地スイーツを味わえる土産物店「勘右衛門」へ。ソフトクリームの上を白と青のブリ型もなかが駆け抜ける北陸新幹線パフェは旬だけれど、気になる相手との距離を縮めるなら「ダンコチンコパフェ」。フルーツやチョコが、だんこちんこ(互い違いを意味する方言)に並んでいる。注文すると、恋心を方言で切なく歌った曲「恋はDANKO CHINKO」が流れだす。「二重にバカ受け」と、店長の川嶋裕美子さん(54)は太鼓判を押す。

力ずく貞操「尻打祭」 

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 甘い曲に乗り、富山市の神通川沿いの鵜坂神社までドライブ。縁結びや安産の祈願に訪れる人が多い。平安時代から江戸時代までは日本五大奇祭の一つ「尻打祭」が行われていた。正月の七草がゆを炊いた薪(まき)で女性の尻を打つと、健康な子が生まれるという公家の遊びに由来するが、いつしか女性の貞操を戒める神事に変化。「油断して行くな鵜坂の尻打祭」と松尾芭蕉も詠み、恐れていたようだ。

発する視線 石仏、石像

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 恋の始まりは危なっかしい。浮気心をたしなめたら、国道41号を進んで神通川上流を目指す。左右に広がる山並みを深緑色の流れが貫く。神通川第二ダムの向こう、山肌から幾千もの目がこちらを見つめてくる。「富山屈指の怪奇ゾーン」とピストンさんが呼ぶ「おおざわの石仏の森」と「ふれあい石像の里」。

 約870体の石仏、420体の石像が鎮座する。「心の和みになれば」と地元の名士が数億円もの私財を投じて整備したという。あぐらをかいた着物姿のおじさんや、脚を組んで妙に色っぽい女性、前方をにらんで仁王立ちする幼女。頭の中は「?」で埋め尽くされ、恐ろしくなる。千本ノックのごとく1体ずつにツッコミを入れる気概を見せよう。相手がほれるか、あきれるかは腕次第。

見る見る精力 熊鍋で

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 まんざらでもなさそうなら、一気に勝負。市内の居酒屋「末広」へ。恋心を燃え上がらせる熊鍋はロース、もも肉を野菜とみそ味でいただく。臭みはなく、程よい歯応え。かむほど肉のうま味が広がる。「コラーゲンたっぷりで精力もつくよ」と、渡瀬恒彦似の店主、増田哲夫さん(67)。1973年の開業以来、料理の腕を独学で磨いてきた。

 「宣伝部長」を自認する常連客が教えてくれた牛ハツ(心臓)のステーキや豚足も絶品。上品なだしが染み込んだおでんは、ほっとする味だった。

 シニアの客も多いが、「小1時間で帰ります」と言って5時間飲み続けたり、無視されても下ネタを盛んに飛ばしたりと元気。料理の効果か。閉店間際、おじいちゃん2人を引き連れて上機嫌のおばあちゃんも登場。「いつまでもギンギンでいよう」。見習ってそう誓い合うこと間違いなし。

ライター・藤井さん、楽しみ方は?

肌で感じて、突っ込め!

 富山県の珍スポットや濃厚な人々を愛情を込めて紹介する小冊子「文芸逡巡(しゅんじゅん) 別冊 郷土愛バカ一代!」を発行しているピストン藤井さんに土地の楽しみ方を聞いた。

−ユニークな場所や人々はどうやって発掘しているのですか。

 珍妙なオーラを受け取ります。サービス精神が旺盛だったり、ベクトルがどこに向いているか分からないけれどパワーがあったり。完全にイッてしまっているかどうかを見極める皮膚感覚も肝要。何度も通い、店主らと人間関係を築いて取材します。

 富山に戻った時、十数年ぶりに会った中学時代の友人から「よく帰ってきた。富山は面白い所だらけだよ」と教えられたのがきっかけです。

−珍スポット巡りの心構えを教えてください。

 基本はアミューズメントパークじゃなくて、ただそこにあるもの。どう感じるかは見る側に全て任されている。特に掘り下げなくてもいいところを掘り下げ、いちいち丁寧に突っ込んでいきます。石像の里なら「この像は場末のスナックのママ風だな」と想像するのが楽しい。珍スポットは誰かに教えられるものではなく、定義するのも自分。尊いものなんです!

−なるほど、新たな価値を見いだすと。ジョン・ケージの「4分33秒」(注1)や超芸術トマソン(注2)にも通じますね。

 いや、もっと泥くさいです。誰かを覚醒させたいというより、自分の責任で自分が面白いと感じたことを伝える。「これ、面白いよね」と言い合うと楽しいでしょ。

−富山県の印象は変わりましたか。

 地元は映画館もレコード店も少ないし、つまらないと思っていたけれど、面白かった。確かに昼間はシャッター通りが目立つけれど、夜はギンギンになっている場所がある。若者らが集まり、音楽イベントなどが夜な夜な開かれていて、昼とは違う刺激がある。それを知っているか知らないかによって、まちの印象は全然違う。知らずに「ここは退屈…」とか言われると、しゃくに障るんです!

 注1.「4分33秒」 米国の前衛音楽家ジョン・ケージの代表作。全楽章とも「休み」の指示だけ。つまり無音の曲。音楽に新たな概念を創造したとされる。

 注2.トマソン 不動産に付着していて美しく保存されている無用の長物。1972年、前衛芸術家の故赤瀬川原平さんらが、純粋に上って下りるしかできない「無用階段」を発見し、「超芸術」と名付けたが、理屈っぽく重々しいからと「トマソン」に改名した。

 ピストン藤井(本名・藤井聡子) 1979年富山市生まれ。関西の大学で芸術理論を学ぶ。映画監督を志して滝田洋二郎監督らを輩出した東京都内のピンク映画制作会社に入るものの、厳しくて1カ月で退社。編集プロダクションで映画雑誌を担当し、出版社「ストレンジ・デイズ」に入って音楽雑誌を編集する。「30歳になる前に帰ってこい」と親から将来を心配され、28歳で富山に戻る。地元のフリーペーパーに連載を始め、生まれたのが小冊子「文芸逡巡 別冊郷土愛バカ一代!」。2013年発行の第1号「ホタルイカ情念編」が好評を呼び、14年に「黒部ダム怒濤(どとう)編」も発行。珍スポットライターとして注目を集める。小冊子は富山市の「古本ブックエンド」で購入できる。問い合わせは同店=電076(493)6150=へ。

 

 

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