トップ > 北陸中日新聞から > popress > 特集 > 記事

ここから本文

popresspopress【特集】
 

暮らし北陸 しごと東京 実践「2地域居住」

写真

 仕事の中心は都会、家族とゆっくり過ごす自宅は地方都市−。二つの地域に拠点を置く生き方が、若い世代に少しずつ広がっている。北陸新幹線開業が迫る北陸でも実践する人たちがいる。都会と地方を行き来する人の存在は、まちにも刺激を与える。「2地域居住」の可能性を探った。

写真

食や伝統 子育て第一

 「400年残る町並みを楽しんだり、子どもと一緒に雪で遊んだり。東京では持てない時間が自分を豊かにしてくれる」

 金沢市に暮らす高木俊明さん(34)は、10年ぶりに戻った故郷の良さを話す。取材に訪れた日も雪模様。白く染まった庭で遊び、上気した無邪気な笑顔の男の子も一緒に出迎えてくれた。

東京と金沢に拠点を持つ高木俊明さん(左)=金沢市石引で

写真

 高木さんは2013年11月に都内の映像制作会社から独立。その後、1カ月のうち2〜3週間は東京で働き、残りの時間は金沢で家族と過ごす。時には妻子も1週間ほど上京し、家族の時間を確保している。

 長男(3)の誕生をきっかけに暮らしを見直した。仕事は人脈や需要の面から東京に利点があるが、子育ての環境は伝統的な景観や自然が身近にある金沢市にひかれた。市が企画した伝統文化や暮らしに触れるツアー「金沢ふうライフ」に参加し、決意した。

 石川県白山市出身の妻、亜紀さん(36)も自然の壮大さに加え、地元産の食材がそろう環境を評価。「夫と離れて暮らす時間は寂しいけれど、金沢と東京それぞれの良さを子どもにも体験させられる」と話す。引っ越した当初は子どもの預け先や遊び場探しに苦労したが、徐々に慣れてきた。

 高木さんは親が住んでいた一戸建て住宅を改修し、暮らしている。都内に住居兼仕事場も借りているが、家族3人で以前住んでいた住宅よりも家賃は安く済み、「金沢の方が物価水準も低いため、生活費は抑えられる」と話す。

 上京の際は夜行バスを使うことが多く、移動時間に睡眠を取るため距離も苦にはならないという。「北陸新幹線なら日帰りもできる」と期待。将来は金沢を拠点に全国の仕事を手掛けたいと考えている。

写真

まち発信 携わる充実感

 土蔵造りの家々が連なる山町筋と高岡大仏の通りを結ぶ富山県高岡市小馬出町の交差点に昨年夏、コーヒースタンドがオープンした。店名の「コンマ」には街行く人たちが一息つき、歩きだせるような場にしたいとの思いが込められている。

 営むのは富山県出身で、東日本大震災直後に都内から移り住んだ建築士の大菅洋介さん(35)と妻の麻希子さん(35)。バリスタ(コーヒー職人)の麻希子さんがいれるコーヒーや旬の地元食材を使った料理、菓子が味わえる。

 洋介さんは設計事務所を置く都内に仕事のため半月ほど滞在。建築現場の作業がない時は高岡市で暮らす。降雪時の交通の乱れなど不便もあるが「移動は切り替えの時間。いろんな考えをまとめられる」と話す。高岡に居場所をつくろうと、今春にも住居兼事務所を開く。

東京と高岡に拠点を持つ建築士の大菅洋介さん(右)とバリスタで妻の麻希子さん=富山県高岡市小馬出町のコンマ・コーヒースタンドで

写真

 都内の美大を卒業後、設計事務所やゼネコンで9年間勤め、独立した。高岡市出身の麻希子さんと結婚して一男一女に恵まれ、仕事も順調。東京で暮らしていくつもりだった。震災と原発事故を受け、「リスクを負って生きていくことはない」と決断。2011年3月12日夜、家族を連れて高岡市にある麻希子さんの実家へと車を走らせた。

 洋介さんが高校生活を送った高岡の街中は以前ほど活気がなく、商店街はシャッターが閉まり、食料を扱う最寄りの店はコンビニエンスストア。県外産の商品が並び、違和感を覚えた。

 地元に新鮮な食材があり、素晴らしい生産者や加工業者がいる。その魅力を広めようと昨年夏、土蔵造りの軒下に地元産の野菜などを並べる「たかおか軒下マルシェ」を企画すると、盛況だった。「コンマ」でも食料品を扱い、地元の工芸作家の器で料理を出す。生産者や作家とのワークショップも検討中。「一緒に何かを生みだし、地元に還元できたら」と麻希子さん。

 東京の仕事では得られなかった「まちと関わる感覚」を洋介さんも持った。近所の公民館建設では住民の意見がまとまらない中、アドバイザーを任され、設計も依頼された。高岡のものづくりや町並み、食を楽しむイベント「高岡クラフト市場街」の実行委員会に加わり、東京のアーティストを招いて古い建物を生かした展示を企画し、まち歩きのツアーなども担当。生まれ育った同県朝日町の食材を紹介するイベントを都内で催し、田舎暮らし体験のツアーも仲間と主催した。

 本業は、古い建物にデザインや安全性の面から新たな価値を持たせ、生まれ変わらせること。富山県には何もないと住民は謙遜しがちだが、「磨けば光るものや、既に光っているものがある」と洋介さん。商品化や発信が自分の役割と感じている。全国と交流のあった北前船の船員や薬売りのように都会と地方をつなぐ存在を目指している。

写真

移住呼び込み 地方も知恵

 移住者を呼び込もうと自治体も知恵を絞る。金沢市は2012年度から金沢ふうライフの体験を首都圏でPR。主な対象は子育て世代で、移住しても仕事に差し支えないクリエーターら。金沢を拠点に創造的な仕事を生みだし、まちの魅力を発信してもらうことを期待する。昨年までに2組が移住を決めた。住宅取得の補助金はUIJターンや45歳未満の人には加算もある。

 富山市は「平日は首都圏、休暇は富山」をうたい、セカンドハウス購入の支援を昨年10月から始めた。街中の一戸建てや分譲共同住宅を取得する際、1戸あたり25万円を補助、市内に65歳以上で3親等内の親族がいる場合は10万円を上乗せする。

 石川県の珠洲市や穴水町は実際に住んで能登の暮らしや風土を感じる制度を用意。自治体が用意した物件に短期滞在し、住環境や仕事を調べられる。「外から意欲的な人が来ている」と珠洲市の担当者。穴水町は約30件の利用があり、1割が移住につながった。

 担当・押川恵理子

 

この記事を印刷する

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索