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焼き物 記憶を再生 美術作家 山本優美さん(31)=金沢市

柔らかな質感や手触りを陶芸で表現した代表作「存在の感触−キャミソール−」(2013年)

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 無造作に畳まれたキャミソール。細やかなレースの模様や生地のしわまで精巧に再現され、軽やかな質感すら伝わってくる。これが焼き物という事実に驚かされる。美術作家の山本優美さん(31)=金沢市=は、粘土を手彫りし、日用品を具象的に表現した作品で注目を集める。陶芸から現代アートの世界に切り込んでいく。

人の存在に通じる感触

−陶芸を選んだのは。

 小学生のころは漫画家になりたかった。中学の美術の授業が面白くて、美術の世界に行きたいなと。美大に進むため、高校1年生の時から画塾に通いだした。

 いろんな美術の展覧会を見て回った。高校3年生の時、京都でミニマルアートの展覧会があった。ガラスでつくられたじゅうたん状の作品、アルミニウムの立方体とか、コンセプチュアルな作品なんだけれど、意味が分からなくても面白かった。歴史的文脈に頼らず、どんな国や文化に属していても鑑賞できるその世界にわくわくし、空間や立体に関わる表現がしたいと初めて思った。アートとして成立している背景も気になり、自分で調べだした。

 そこで普通なら彫刻科に進むところ、いろんな素材に触れられるからと工芸の道へ。金属も考えたけれど、陶芸を選んだのは、粘土が自分のつくりたいもののイメージや欲求に幅広く対応してくれると感じたから。

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−土の質感にもひかれた。

 砂目のざらっとした感じが何とも言えず好き。独特の存在感もあり、手ごわいというか、ひかれる部分と好きじゃない部分が入り交じっている。他の素材をあんまり寄せ付けない感じもあって、それは人の存在とも通じると感じた。

 金沢美術工芸大に入った19歳のころ、親しい人が大病をした。それまで健康だったのに、生死に関わる病気。見舞いに行くと、同じ病気でいろんな世代の人が入院していた。病気にかてず、亡くなる人も見てきた。何げない日常の中に生死のドラマがあると実感し、「存在」という感覚に敏感になった。

 大学では陶芸からアートに接続しようと試行錯誤。当時、シェアハウスで留学生と暮らして刺激を受け、語学にも関心があって、大学院はベルギーへ。年齢差を意識しないフラットな環境で、学部の1年生から大学院生まで同列に採点され、順位が決められた。審査はギャラリストらが厳しく行う。競争は激しいけれど、過去の実績に関係なく、作品が良ければ美術館などでの展示につながる。

 大学院1年生ぐらいまではいろんな形を受け止める土の可塑性を重視し、つくっていた。現代はいろんな素材やメディアを使ったアート作品がある。なぜ土を使うのか。その理由が可塑性だけでは不十分と感じ、陶芸から離れるべきじゃないかと常に悩んでいた。

 大学院2年生の時、のみの市を毎日やっている広場をよく散歩していて、そこで見つけた古い道具を石こうで型を取って作品にするシリーズを始めた。

−陶芸を「記憶のメディア」と捉えた。

 粘土は軟らかく、いろんな形をかたどることができる。でも焼いてしまうと、もう動かなくなる。粘土が水分を失い、硬くなっていくプロセスに「時間の流れ」を感じ、記憶をとどめるものだなと。洗濯物を畳んだり、ラジオを聞いたりとか、日常の行為を思い起こさせるような古い道具が持っている時間の流れを視覚化しようとした。

 当初は作品に青みがかり乳濁した釉薬(ゆうやく)をかけていた。釉薬はガラスの膜だから、人の気配がガラスに覆われているイメージで。ハンカチの束をモチーフにした時、石こうで型を取れないため、実物を観察しながら粘土で原型をつくった。手で彫り、柔らかいものを再現する感覚がすごく面白かった。

 それから、彫る行為の意味や濃密な時間も視覚的に伝えようと、釉薬をかけずに土の表情を見せるシリーズをつくり始めた。作品を見た人は頭の中のイメージや記憶から想像をふくらませていく。題材とした素材も言い当てる。サテンは細やかなしわが入り、陰影もはっきりしている、綿はふわっとしているとか。

 衣類は持ち主と近いところにあって、面白いモチーフ。日常の中ではありふれた風景も、異素材に置き換えて固定することで強調できる。空気感や孤独感とか。人の姿は見えずとも気配をポートレートのように写し取りたい。

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−今後の目標は。

 いろんな美術の作品を見てきて、背景や作家の言葉を全然知らなくても感動する経験が何度もあった。作品を見て救われたり、感じ取ったものを持ち帰ったりすることは誰にとっても自由。ふとした瞬間に思い出され、励みとなる。そんな作品をつくっていけたら。

 やまもと・まさみ 1983年、大阪府枚方市生まれ、小学1年生から神戸市で育つ。2007年金沢美術工芸大美術工芸学部工芸科(陶磁専攻)卒業。09年ベルギー国立ラ・カンブル美術大セラミックコース修士課程修了。11〜13年度は金沢卯辰山工芸工房で技術研修者として創作に励む。09年にドイツの国際工芸・デザイン展「Talente」ベストアーティスト賞、14年5月に次代を担うクリエーターの発掘、育成につなげるアートフェスティバル「SICF」(スパイラル・インディペンデント・クリエーターズ・フェスティバル)でグランプリに輝く。作品などの問い合わせは山本さんホームページhttp://www.yamamotomasami.com/へ。

 出展予定▽金沢卯辰山工芸工房25周年記念「卯辰山のかたち」展(仮称)/2015年3月16〜21日(10〜18時)/金沢21世紀美術館(金沢市広坂)▽SICF16/15年5月2〜5日(11〜19時)/スパイラル(東京都港区南青山)

「頭がよかったら学校の先生になりたかった」(ブラウス)

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最新シリーズ「うつしみ」

戦時中 祖母の青春

 最新シリーズ「うつしみ」は、横浜市に暮らす祖母(90)の持ち物から生まれた。これまで顔の見えない誰かの衣類を題材としてきた山本さん。作品に具体的な情報を持たせることは初めての試みだ。

【上】「初恋は忘れられない」(コサージュ)【下】「弟は海軍に行ってたけど、帰ってきて結核でしんじゃった」(ズボン)=いずれも市川勝弘撮影、スパイラル提供

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 戦時中に青春時代を過ごした一人の女性。戦争、好きだった人との別れ、祖父との出会いの話を聞き、作品名は祖母の言葉から取った。うつしみ(現し身)には「写す」「映す」といった意味も込めた。現実に生きている人間の姿を焼き物に浮かび上がらせる。

 聞き手・押川恵理子

 

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