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妊活を考える(下) “忍活”にしない支援を

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 晩婚化を背景に不妊治療を受ける人は増えている。治療は急な休みが必要なことも、数年以上に及ぶこともある。周囲に治療を打ち明けられないまま仕事との両立に悩む人も多い。そんな中、休暇の配慮などで支える企業も出始めた。連載後編は当事者の声から支援のあり方を考える。

不妊治療 費用や偏見不安

 金沢市の主婦みちるさん(37)=仮名=が、生まれたばかりのわが子を優しく抱いた。「共に生きられる喜びを感じます。守らなくちゃって思う」。2年半の不妊治療で授かった宝物だ。

 本格的な治療開始は結婚8年目。35歳になったのがきっかけだった。さまざまな検査を受け、問題が見つかったのは夫側。精子の数や運動率は基準値以下のため、選択肢は一つの卵子に一つの精子を直接注入する顕微授精だけだった。

 みちるさんは、卵子を取り出す採卵の前には排卵誘発剤を注射するため毎日通院。1カ月の半分から3分の2は病院へ。体のリズムで採卵日がその前夜に決まるときもあり、急きょ仕事を休む必要もあった。

 看護師として働いた時期もあったが、当時の仕事は、時給より通院できる環境を優先して決めたコーヒー店のアルバイト。職場には「治療して子どもを授かるのは理に反している」と話す男性もいたが、男性店長は夜に遅刻や早退をお願いしても、理解して応援してくれた。

 治療費は2年間で300万円。「毎月、湯水のようにお金がかかり、夫婦げんかの種にもなった」。家だけで過ごすと治療を考えて気がめいることもあり、仕事を続けられる環境はありがたかった。 

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企業側の制度も産声

 職場での支援は少しずつ広がっている。インターネット関連事業大手のサイバーエージェント(東京)は5月、月1回の妊活休暇を新設し、年次有給や生理休暇なども含めて「エフ休」と呼び始めた。不妊治療のため休暇を取る際も、周囲に理由を説明せずに済む。低かった生理休暇の取得率も改善した。

 創業17年目で、社員の平均年齢は30歳。出産を望む女性社員が増えたため、休暇制度を見直した。

 エフは女性を意味するFemaleの頭文字。広報担当者は「使われやすい雰囲気づくりのため、社員が日常会話で使いやすい名前にこだわった。制度を通じて不妊治療への理解も広まってほしい」と期待する。

 一部の人だけが優遇される印象を与えて「しらける社員」が生まれないようにも心を砕いた。エフ休と同時に新設した「キッズデイ休暇」は子どもの行事のために半休を年2回取れ、男性社員に好評。会社に招いた専門医に相談できる「妊活コンシェル」は社外の配偶者でも利用できる。

 大手電機メーカーのパナソニック(大阪)は不妊治療を理由に1カ月以上の休業を認めている。無給だが、通算365日間までなら複数回取得できる。それに加えて年間5日までのファミリーサポート休暇も不妊治療に利用できる。

 不妊治療の費用負担を軽減しようと、精密機器大手のキヤノン(東京)は7年前から100万円を上限に治療費の半額を補助。毎年、200件を超える利用がある。共済会の福利厚生の一環で、社員の治療費を補助する企業もある。

 インターネット上で不妊治療の経験者や希望者に「仕事と治療の両立アンケート」を行っているNPO法人Fine(東京)の松本亜樹子理事長は「ここ数年で社員の不妊治療を支援する企業は出てきたが、まだ広がっていない」と語る。

 治療のために退職する人も後を絶たないが、それで子どもを授かれるとは限らない。2年前のアンケートでは、「派遣の契約更新に響くから」「偏見がある」などを理由に、不妊治療を職場の誰にも話していない人が4人に1人。制度があっても使えない例もある。

 松本理事長は「勤務時間を調整しやすい在宅勤務やワークシェアリングなど柔軟な働き方も広がってほしい。みんな罪悪感を持って休んでいるから、つらくなってしまう」と訴えた。

通院、薬、男女で負担に差

すれ違い生まれがち

 不妊治療は男性か男女両方に原因のあるケースが、全体の半数に上る。不妊治療に夫婦の協力は欠かせないが、男女の負担の差は大きい。

 みちるさんも、治療の少ない夫と気持ちがすれ違った時期があった。通院の負担に加え、6種類以上使った薬の副作用にも悩んだ。吐き気が続き、情緒不安定にもなった。採卵直前は、服用時間を午前0時と午前0時半と指定され、どんなに眠くても我慢した。

 そんな時、酒を飲んで帰ってきた夫と売り言葉に買い言葉でけんか。受精卵を子宮に移植することを直前で中止したこともある。お互い冷静になり、治療を再開したのは2カ月後だった。

 不妊治療を約10年経験した神奈川県の男性会社員(38)は5年ほど前、精子を運ぶ精管そばの静脈瘤(りゅう)を手術で取り除いた。

 手術の抵抗感はなかったという。度重なる通院や注射などでつらそうな妻を見続け、「男には大してできることがない」と感じていた。治療のストレスで2人の仲がギスギスしたことも。「妻が『私は1人で治療してる』と思うと、けんかになる。2人で治療に臨むのが大事。できることをしよう」と考え、家事を手伝い、病院でのできごともよく聞いた。

 春、妻が妊娠した。日々、おなかの中で動くわが子を感じ、2人で泣いた。

悩み話せる場 気が楽に

 不妊治療は長期化することもあり、先の見えない不安を抱える人もいる。そんな時に頼れるのが「話せる場」。NPO法人Fineは不妊の悩みを体験者同士で語りあうグループカウンセリングなどを開く。

 みちるさんは1年ほど前、金沢市の島田薬局で不妊カウンセリングを受けた。これからの治療がどう進むのかを尋ね、悩みもこぼすと、気が楽になった。「自分のつらさを言えずに苦しんでいる人は、いっぱいいると思う。相談の場は増えていってほしい」

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国や県 助成進める

 不妊治療 排卵日を調べて自然妊娠を目指すタイミング法や精子を子宮に注入する人工授精、受精卵をつくって子宮に戻す体外受精などを順番に行うのが一般的。人工授精からは医療保険の適用外。体外受精は1回数十万円かかり、金銭的負担は重くなる。

 日本生殖医学会は、1年以上避妊していないのに妊娠しないことを不妊症と説明。生理不順などがあれば早めの相談を促している。

 国は体外受精などの医療費を1回15万円を限度に助成。対象は合計所得730万円未満の夫婦。2016年4月からは治療開始時に妻が43歳未満の場合に限られる。

 独自に助成を充実させる自治体も多く、石川県はタイミング法など初期の治療も補助。富山県は国の制度の所得制限を撤廃。福井県や三重県は4月、男性不妊の啓発を兼ねて精子の採取手術の助成制度を設けた。

担当・福岡範行

 

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