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脱観光の目で見る金沢 同志社大・井口ゼミの研究から

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 政府が「地方創生」を推進し、地方のまちづくりへの注目度が高まっている。観光客や移住者を呼び込むにはどうすればいいのか。金沢市を題材に観光政策を研究する京都の学生らと一緒に考えた。浮かんできたキーワードは「脱観光」。その心とは。(担当・押川恵理子)

「住民が楽しめるまち」強み

 観光といえば経済効果が叫ばれ、B級グルメや、ゆるキャラが増殖している。

 これでいいのかニッポン。疑問をぶつけようと訪ねたのが、同志社大(京都市)の井口貢教授のゼミ。金沢市や滋賀県近江八幡市などを対象に観光や文化政策を研究している。

 ゼミの学生約20人は昨年度に金沢市内を巡り、山出保・元市長の著作「金沢を歩く」も熟読。金沢のまちをどう評価しているのか。

 訪問前からよく知られていたのは金沢21世紀美術館と兼六園。歴史と最先端の文化が共存しているまちとの感想が目立った。一方で「歴史、伝統文化、暮らしやすいまちづくり、前衛的な美術館、いろんな要素があって魅力的な半面、これという特徴が見えづらい」との声も。

 3年生の岩崎早穂(さほ)さん(20)は「すごく不思議なところ。住んでみたいと思った」と話す。緑が美しい街中を歩けば、現代アートのオブジェと出合い、古い建物が今も大切に使われている。道に迷っていると、住民が親切に教えてくれた。「まちの中に観光客と住民が気持ち良くとけ込んでいる」。今の日本で失われつつある顔の見えるまちづくりに触れたことが、不思議と感じた理由と振り返る。

 住民の営みを含めて観光ととらえている学生が多く、「建物が美しくても、住民が冷たかったり、観光に積極的でないと、良い印象を持てない」「観光地はきれいだったけど、片町の路地裏にたばこの吸い殻が落ちていて残念だった」などの意見も出た。

 観光の目的地から目的地へと移動している際に見た風景や出会った人々が印象に残ったという学生は「観光地と生活の場。その二面性からまちをみると、新たな気づきがある」と話す。

 山出元市長は「金沢は学都。観光都市と呼んでほしくない」と主張する。加賀藩から受け継がれてきた学術文化を磨くことが、観光につながると信じる。

 結果としての観光。井口教授は「脱観光的」観光とも呼ぶ。好例の一つとして、焼き物のまちである愛知県常滑市を挙げる。観光名所の土管坂は、ある窯元が6月に嫁入りがあったため、花嫁が雨で坂道を滑らないようにと土管焼成時に出た廃材を道に埋めたのが始まりという。それが広がり、焼き物の散歩道が生まれた。最近は古い土管工場を再生したカフェが増え、工芸作家が出展するクラフトフェスタも開かれている。

 自治体の観光ブームは、小泉純一郎元首相が「観光立国」を打ち出した2003年以降に過熱。入り込み数ばかり重視する自治体担当者が「どうやって観光客にお金を落とさせるか」と話すのを聞くたび、井口教授は反発を覚えた。観光や文化を経済成長の手段にしてはいけない。

 安倍政権の「地方創生」には、政治家が地方活性化をうたい文句に「若者を使い捨てにしたり、疲弊させてはいけない」とくぎを刺す。創生、まちづくりという言葉にも違和感を示す。いろんな色の糸がつむがれて1着のシャツができるように、歴史や風土といった「たて糸」に、住民の思いである「よこ糸」が合わさり、まちは熟成する。「まちつむぎ」という概念を提案する。

 「観光は住民たちが自ら楽しめ、幸せを感じることが大切です」

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“金太郎あめ”のまちでは困る

山出保・元市長が講演

 同志社大では10月末、文化によるまちづくりをテーマに山出保・元金沢市長が講演。「他との違いを意識し、まちの個性と魅力を磨くことが大切」と市政20年を振り返り、昨今の金太郎あめのようなまちづくりを批判した。

 加賀藩の前田家から戦を避け、学術や美術工芸を磨いてきた金沢。個性は歴史と文化だが、それだけでは若い世代は満足しないから、オーケストラや現代美術、演劇など新しい文化をつくっていかねばならないと強調。「伝統に創造の営みが必要」と訴えた。

 岐阜県白川村の合掌造り集落・白川郷が世界遺産に選ばれ、観光客が急増した際に周辺の一帯を駐車場にしたことを残念がり、「観光の負の部分を議論しないとだめ。自分さえ目立てばいい、儲(もう)ければいいというのも違う。自制の論理が必要」と指摘した。

 講演は約400人が聴講。「自治体の持続可能性が問われている中、観光政策はどうあるべきか」と学生から問われると、「政府は地方創生を盛んに言っているが、地方が知恵を出してこそ地方は元気になる。それぞれの良さを磨き、自立していかねばならない」と答えた。来年3月の北陸新幹線金沢開業によって「まちの『顔』が一緒になっちゃ困る。住民の見識が問われる」と冷静さも求めた。

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何もないちゃ? いっぱいあるちゃ!

富山県、地元の良さ学ぶ講座

 地域の良さを住民が知ることが、観光の第一歩。北陸新幹線開業に向け、富山県は昨年度、「何もないちゃゼロ作戦」を展開した。

 富山といえば気高くそびえる立山連峰、自然の不思議さを伝える蜃気楼(しんきろう)、深海が育む海の幸、越中八尾おわら風の盆、工芸…。富山市出身の記者はどんどん思い浮かべるが、来県者から見どころを尋ねられて「何もないちゃ」と答えてしまう県民もいるとか。

 謙遜なのか、実際に知らないのかは定かでないが、これでは魅力が伝わらないと、県は地元の自然や食、伝統産業、方言などを専門家から学ぶ全10回の講座を開催。受講者からは「語るべき魅力がいっぱいあると分かった」「天然魚は当たり前と思っていたが、今後はPRしたい」などの感想が寄せられた。

 

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