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ニッチな情熱注ぐ 酒の王冠 石川に職人あり

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 日本酒の瓶にかぶせる王冠に注目したことはありますか? 酒を選ぶときは、まず見ない。輝きも控えめ。そんな王冠の国内最北のメーカーが石川県羽咋市の三伸樹脂工業。小さな金属のふたの進化を信じるニッチな情熱を、4周年を迎えたポプレス編集部と大学生によるスペシャル紙面で伝えます。

 (企画、デザインは金沢学院大生の団体「Design Team ARS(アルス)」が担当。21日は製作の裏側を紹介します。)

蒔絵の技術で彩り

 朱色地に描かれた黒色の香箱ガニは重厚感をもたらし、淡い緑色や黄色のトンボは爽やかな風を思わせる。

 三伸樹脂工業の3代目社長丸田一幹(かずもと)さん(40)の発案で2年前から開発を始めた「蒔絵(まきえ)の王冠」。漆を塗ってはいないが、漆器の彩色技術はそのまま生かされている。

 彩色は北市漆器店(石川県加賀市)が担った。漆器用の塗料を接着剤にし、金粉や銀粉、青や赤の色粉をくっつける手法は、通常の蒔絵と変わらない。王冠は直径数センチ。目に見えない凹凸のある狭いスペースで、寸分のずれもなく浮かんだ絵に熟練の技が光る。

 漆器店の北市博之社長(54)は「伝統工芸とお酒のコラボで新しい付加価値を生む。やる意味はあると思った」と振り返る。

 1品1品手作りの蒔絵が生み出す和の風情と高級感。和食ブームを期待できる海外向けの日本酒に、彩りを加えるのが狙いだ。

 丸田さんは、コレクション性を高めた王冠が、多彩な酒を試す後押しになることも願う。

 日本酒の王冠は、ビールなどと比べ、シンプルなものが多かった。独自のデザインも、酒の名前や家紋だけというのがほとんどだ。

 「ビールの王冠を集める人はいても、一升瓶の王冠コレクターは少ないんです」と丸田さんは寂しがる。

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 従来の金属プリントでは数万個単位の生産が基本で、酒の種類ごとに王冠の図柄を細かく変えることも難しい。蒔絵の王冠は500個から生産可能。独自の図柄も20種類用意し、限定販売にも対応できるようにした。

 「日本酒の顔はラベルだろうけど、飲む直前に目に入るのは王冠。そこで味を表現したい」

 ワンポイントで買い手の心をつかむ。そんなデザインを追求している。

 三伸樹脂工業は1937(昭和12)年に創業。王冠の中栓を作るプラスチック樹脂加工の設備を生かし、球状ペットボトルや縄跳びの持ち手も製造する。

 金属と樹脂の加工を兼ね備えるのは、全国で十数社だけという王冠メーカーの中でも希少。多彩な商品開発の原動力になっている。

吟醸香逃がさない

 日本酒「手取川」を醸造する吉田酒造店(石川県白山市)と協力し、4年前に開発した「パストライザー用王冠」。樹脂製の中栓を熱に強く改良し、瓶詰めしたまま日本酒を加熱殺菌しやすくした。

 最大の貢献は、吟醸香を逃がさないこと。瓶詰め前に加熱すれば、せっかくの香りが飛んでしまう。王冠が熱で変形しないよう、プールに一升瓶を並べて温める昔ながらの方法もあるが、100本が限度だ。

 熱に強い王冠は、瓶に熱湯のシャワーをかける効率的な殺菌をしやすくした。

 吉田酒造店の吉田隆一社長(59)は「空気の酸化でも、お酒の味は落ちる。日本酒の質を上げるには、機密性の高い王冠は欠かせない」と力説する。

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リサイクルも楽々

 自然に抜けることはないのに、楽に開けることはできる。そんな絶妙な力加減を生み出しているのが、中栓の底のアルミはくだ。滑りやすい瓶とプラスチックの間に入って、巧みな摩擦力でつなぎ留めている。

 そんな縁の下の力持ちも、ごみの分別時には邪魔になる。だから開発したのは、オール樹脂製のリサイクル用中栓。材料には50種類の樹脂を試し、滑り止めの素材も練り込んだ。密封時に余分な空気を抜くため、側面には深さ1ミリにも満たない溝を付けた。

割れないガラス?

 正体は、表面を揺らめかせてガラス風の質感を出したペットボトル。試験管ほどの太さで、筒の壁に気泡を交ぜたりして、おしゃれさを模索。華やかだけど、割れることはない容器を目指して研究を進めている。

小学生時代「王様」に!?

 丸田一幹さんは小学生時代、王冠のおかげでヒーローになったことがある。

 4年生のときだ。学校で一升瓶の王冠をぶつけ合う遊びがはやった。

 家業が王冠メーカーと知らなかった丸田君。友達が持つ県外の酒の王冠が欲しいのに、両親は下戸で家には酒瓶がない。

 「お酒を飲んでよ」。丸田君の不満が爆発した。

 下戸の親は言った。「王冠ならいっぱいあるぞ」。

 家の工場に積まれた王冠は、宝の山。どんな王冠も持つ丸田君は、あっという間に人気者だ。

 でも一つだけ、残念なことがありました。丸田君が絶対王者になったからでしょうか。王冠遊びのブームは、あっという間に過ぎ去ってしまいましたとさ。

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三伸樹脂工業・丸田社長

Q職業病はありますか?

A 酒屋さんに入ると、王冠を見ちゃいますね。「何を見てるんですか」と不審に尋ねられたりします(笑)。王冠の切り込みが気になるんですよ。会社ごとに違います。出来栄えにむらがあってもだめ。1万個作ったら1万個、同じように切れなきゃだめですね。

Qアイデアはどこから?

A 一つはお客さん。あとは、いろんな興味を持つこと。金沢に行くと必ず、業界と関係ない本を見ると決めてます。毒の本、ホリエモンさんの獄中体験記、美術系のカタログ。子どもの自由研究の本も、すごいアイデアが詰まってますね。

Qニッチにこだわる?

A 会社の規模の問題もありますよね。大企業であれば、いろんな種類や色を用意できるが、それには資金力や宣伝力が要る。それよりは、いわゆる「地方のラーメン屋さん」でいいんです。1軒しかないお店なんですけれど、そこで繁盛店になりたいな、というところを目指しています。

 

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