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ずっと隣 支えあう 自閉症「きょうだいの会」広がる

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 障害のある子どもがいると、家族の暮らしは当事者を中心に回ることが多くなる。兄弟姉妹は疎外感を覚えたり、自立を急いだり、不満や悩みを1人で抱え込んでしまいがちだ。当事者の隣にいる存在にも目を向け、そっと手を差し伸べる。そんな支援の輪が少しずつ広がっている。

悩み共有「気が楽に」

 秋晴れに恵まれた10月下旬。福井県鯖江市の宿泊施設に5人の女の子が集まった。年齢も通う小中学校も違う。共通するのは自閉症のきょうだいがいること。

 福井県自閉症協会の「きょうだいの会」の合宿で、5人は家族としばし離れ、ものづくりやスポーツを楽しんだ。3歳下の弟が自閉症という小学6年の女児(12)は「自分と同じような人と出会えて楽しい。保育園のころ、自閉症の意味を知った。弟のことを聞かれると、どう答えていいか分からない」と話す。

 自閉症のきょうだいがいる子どもは自立心や責任感、思いやりが深まる一方、親の接し方に不満や寂しさを感じたり、友だちとの関係や将来などに悩んだりする傾向がみられる。自分は我慢しなければと考える子もいれば、親に反発する子もいる。自閉症の受け止め方や悩みは人それぞれだが、生涯、当事者と向き合うことは変わらない。「きょうだい同士がつながり、成人後も支え合う関係づくりが大切」と、福井大学病院小児科講師の川谷正男医師(43)は説明する。

きょうだい支援を続ける福井大病院小児科の川谷正男医師

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 きょうだいの会は川谷さんはじめ、医師や心理士、スクールカウンセラーら専門家が子どもたちに寄り添う。本人が望まない限り、自閉症について話したり、勉強したりすることは求めない。居心地良く過ごしてもらうことも目的だから。

 川谷さん自身も弟(39)が知的障害を伴う重度の自閉症。「小さなころも大人になってからも、弟のことは話題にしたくなかった」と振り返る。

 弟や親を助ける姉に比べ、自分は家族に距離を置いている気がして引け目があった。幼いながらも責任を感じ、小学2年の時、文集に書いた。「医者になって弟を治す」

 2008年に熊本県であった日本自閉症協会の全国大会で、きょうだい支援の第一人者である米国の心理士ドナルド・マイヤー氏の講演を聞き、はっとした。「支援されるのは弟、支援するのは自分と思ってきたが、自分も支援されていいんだ」。気持ちが軽くなった。

きょうだいに自閉症のいる小中学生が合宿を通じて交流。手前は支援する医師やカウンセラー=福井県鯖江市で

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 翌年秋、川谷さんらは福井県にきょうだいの会を結成。年4回、交流行事を催している。初回から参加する鯖江市の中学1年生、野沢桜子さん(13)は小学4年の弟(10)が自閉症。「学校とかできょうだいの話になると、私は弟が自閉症と言っちゃうタイプなんだけど、周りはそれ以上何も聞いてこなくて。ここでは、みんな同じことを思っているから、何でも話せて気が楽です」と笑顔を見せた。

 「一人で抱え込むことはないが、向き合う必要はある。相談したくなった時に、このつながりが役立ってほしい」。川谷さんは医師、同じ立場の先輩として願う。きょうだい支援の組織は愛知県、東京都、神奈川県、北海道にもあり、輪は少しずつ広がっている。

障害ある妹の日々を撮影

映画「ちづる」赤崎正和監督

映画「ちづる」の一場面。妹の将来をめぐり、母親と話し合う赤崎さん(左)

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 自閉症と知的障害のある妹のことは、ずっと隠して生きてきた。妹の日々を撮った映画「ちづる」監督の赤崎正和さん(26)はカメラを通して、妹と自分の将来と向き合った。

「普通の家族」差別していた自分

 2歳下の妹は宇宙人。学校帰りに行方不明になり、母親が必死に捜し回ってたら、ニタニタして現れ「キムチチゲ食べてた」とか。明るくて、自分の気持ちに真っすぐ生きているようでうらやましかった。

 幼いころは仲良かったけど、思春期になると、けんかばかり。学校で妹の話題を出すと変な空気になるし、家では妹に無視される。

 大学受験に失敗し、父親が交通事故で亡くなった。浪人中は真っ暗な1年で、映画に励まされた。2時間で気持ちを前向きにさせるってすごいなと。映像を学べる大学に進み、ドキュメンタリー映画の先生と出会った。

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 大学3年の冬、卒業制作のテーマが決まらず、先生から呼び出された。小さいころから障害への差別を感じ、生きてきたことを打ち明けると、先生は「妹を撮ればいい」と。その時は「絶対に嫌です。隠して生きてきたから」と断ったけど、考え続けて気づいた。自分が表現したい気持ちの根本には、家族のことを言えないことが関係している。

 テーマは障害だけど、わが家にはシュールな笑いがあるから、コメディーを作るつもりで撮りだした。最初、妹はカメラに拒否感があった。僕が嫌いだから。撮るうち僕自身が前向きに変わり、妹も自然体に。

 就職活動が本格化し、自分だけでなく、カメラの先の妹の将来を考えだした。親がいなくなったら自分はどう関わればいいのか。

 僕は放送局の就職に失敗し、福祉施設で1カ月ほどボランティアをした。「いろんな人が世の中にいることが自然」と感じられて居心地が良く、福祉を志した。

 1年間かけて撮った映像は79分に編集。僕は妹だけの作品にしようとしたが、先生は家族3人の話だと。僕と妹と母が映っているシーンを見ながら言った。「何で障害にこだわるんだ。俺には普通の家族にしか見えない。差別しているのは、おまえじゃないか」

 差別の芽が自分にもあった。先生の前で号泣。妹の障害じゃなく、家族を撮ることで妹のキャラクターを伝えようと思った。

 公開後、予想以上に多くの人に見てもらえた。「私のお兄ちゃんも自閉症なんだ」と、バスケサークルの仲間の1人が初めて教えてくれた。同じ立場のきょうだいとの出会いも増えた。

 映画を多くの学校で上映することが僕の夢。差別する人と僕の違いは、障害のある人と一緒にいる時間の長さだけだと思っている。

 映画「ちづる」は自主上映会の開催を受け付けている。入場料が無料、有料かによって必要な手続きは異なるため、詳細は公式ホームページhttp://chizuru-movie.com/で確認を。問い合わせはメールアドレスchizuru.movie@gmail.comへ。

 自閉症 先天的な脳の機能障害とされる。コミュニケーションや対人関係などの社会性が身に付きにくかったり、物事に独特のこだわりがみられたりする。発達障害の一つで、重度の自閉症から知的障害を伴わないアスペルガー症候群まで幅広いため、最近は自閉症スペクトラム(連続体)といわれる。割合は人口の1〜2%とされ、日本では100万〜200万人とみられる。男女別では4対1の割合で男子が多い。遺伝的要因も色濃く、きょうだいも障害がある可能性は2〜5%とされる。

 きょうだいの会 福井県自閉症協会にきょうだいが所属し、発達障害や精神疾患の診断を受けていない小中学生が対象。連絡先は福井大医学部小児科=電0776(61)3111=へ。

 担当・押川恵理子

 

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