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性と生 自分らしく 性分化疾患を考える

男?女? 体の発達違っても

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 男の子? それとも女の子? 生まれた時に体の発達状態が典型的な男女と異なったり、思春期に第二次性徴が十分に起こらなかったりする「性分化疾患」。性別はアイデンティティーにも関わる。まれな疾患のため、周囲からの誤解や疎外感に深く悩む当事者も多い。「実際に生きている現実をまず知ってほしい」。切実な訴えに耳を傾けた。

体が嫌だった

 「温泉は入りづらいし、追い出されたこともある」。北陸地方に暮らす30代男性は打ち明ける。

 出生7日目に生死の境をさまよい、ホルモンを分泌する副腎と、その分泌を指示する脳視床下部に異常が見つかった。男性器や精巣の機能は十分に発達しない。体の恒常性を保つホルモンが不足するため死の危険とも隣り合わせ。服薬や注射は毎日欠かせない。

 12歳の誕生日に病気を親から説明され、16歳から男性ホルモンの補充を始めた。下半身を見られ、陰部を触られる診察は耐えがたかった。研修医がずらり集まる中で症例として説明されたことも。「10代、20代は精神的に不安定だった。自分の体が嫌いだったり、諦めなきゃいけないことも多かった」と振り返る。

 体の発達状態に関する性分化疾患は、性別の自認や性的指向、男女の社会的役割といったジェンダーとは別問題。「両性具有」や「ふたなり」などの言葉が独り歩きしたり、性同一性障害とも混同されたりしやすいが、「生物学的な揺らぎはありうるが、この疾患だからそうなるわけではない」と専門医は注意する。

 「性自認を獲得するまで時間がかかり、揺らぐ人もいるけど、ほとんどの人は自身を男性、女性と認識し、社会的にもそうして暮らしている。中間の性などと呼ばれると当事者は傷つく」と男性も話す。ただ自身は今、「男」と「どちらでもない」の間を揺れ動いている。

特別視やめて

 北陸地方在住の30代女性は6歳ごろ、身長の低さが気になりだした。12歳になると、女らしい体になっていく周囲との違いに悩んだ。

 20歳の時、「ターナー症候群」と診断された。突然変異のため女性の性染色体XXの片方が欠損する疾患。身長が低く、第二次性徴が起こらない場合がある。

 女性ホルモンの補充を始めたが、体調の変動が精神的、肉体的にもつらく、通院を続けられなかった。3年後、当事者団体に加わり、治療を再開した。

 「特別視されたくない。性教育の場できちんと教えてくれたら」と女性は訴える。「周りに知識を持っている人や相談できる人が少なく、他の当事者とも出会いにくいため、子どものころにいじめられ、自殺を図る割合は高い」と男性。

友に支えられ

 2人とも支えは話を聞いてくれる友だちの存在だ。「職場では明かしていないが、大学時代の仲間ら十数人には伝えた。去った人もいるが、残ってくれた友人とは深い付き合いをしている。度重なる入院時も見舞ってくれ、治療のつらさも話して気持ちが楽になった」と男性は感謝する。

      ◇ ◇ ◇   

 金沢市内で9月末にあった性的少数者の支援団体「レインボー金沢」の交流会で、2人は性分化疾患のことを打ち明けた。耳を傾けていた団体のスタッフ(52)は「男女はすごく複雑、精密な仕組みと感じた。性分化疾患の人には同性愛や性別違和とは異なる苦労もあるが、直面する問題や当事者の意識として似た点も多い」と共感していた。

「性の判定や選択はまだスタンダードがない。難しく責任を感じている」と話す堀川玲子医師=東京都世田谷区大蔵で

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判定 一生を左右

専門医 親の意見大切に

 外性器から男女の見分けがつかず、性器と染色体の性が一致しないなど男女の判定が難しい場合、新生児の性別を選ぶのは医師と親。「成長した時、この選択に満足してくれるだろうか。ものすごく責任を感じています」。性分化疾患の診療をリードする、独立行政法人国立成育医療研究センター内分泌代謝科医長の堀川玲子さんは話す。

 一生を左右する性別の判定。新生児期に体だけでなく、脳の男性化、女性化も予想しなければならない。センターでは内分泌代謝科、泌尿器科、遺伝診療科の医師でチームを組み、外科や産婦人科の意見も時に聞いて、親に提言する。親の意見を尊重しながら一緒に考え、合意して決めていく。特に難しい場合は親の了解を得て日本小児内分泌学会性分化委員会にはかり、全国の専門医から意見をもらう。「調べれば調べるほど迷うこともあるが、しっかり迷って考えることが大切」と堀川医師。

 たった20年前、外性器が正常に発育しない外科的疾患(総排泄腔外反(そうはいせつくうがいはん))は男児であってもほぼ全例で精巣をとり、女子として育てられた。男性器の形成は難しかったから。医学の発展に伴い、現在は脳の性分化を考えて男子を選択することが主流に。

 染色体や外性器の状態だけで性別が決められ、男子なら男性ホルモンをどれくらい分泌できるか、女子なら将来生理が起こって妊娠が可能かどうかを考慮されないケースは今も見受けられる。

 他の病院から紹介されてセンターを受診し、1歳前後で男女の判定が覆る患者もいる。10年単位の全国調査で性別の変更が後から必要になったケースは約30人。「氷山の一角。埋もれているケースもある」と堀川医師はみる。

 男女の分化に関わる疾患ゆえ「特殊にみられがちだが、病気の一つでしかない。特別視せず、偏見なく受容する社会の態勢が必要」と強調。悩んでいる当事者には「まず専門の医療機関で体の状態を知り、将来を一緒に考えましょう。選択肢も可能性もいっぱいある」とエールを送る。

選定進む拠点施設

 診療に関する文献が少なく、国内の大規模調査もまだ行われていない性分化疾患。初期の診療は特に専門性が求められるため、日本小児内分泌学会では内科と外科の専門医がそろう拠点施設の選定を進めている。

 「疾患によっては全国どこでも診られた方がいいが、性分化疾患は適切な診断が性の判定につながり、目先ではなく生涯にわたる治療計画をつくるため、専門家が診るべきです」と堀川医師は説明する。

 ただ、専門的に診ることができる外科系の医師は全国に10人ほどと少なく、さらに遺伝子診療や心理面のサポートも可能な医療機関は限られるのが課題。拠点施設が診療計画を立て、地元の病院が引き継ぐ方法などが検討されている。

 診療の問い合わせは国立成育医療研究センター=電03(3416)0181=へ。

 性分化疾患 母親の体内で胎児はさまざまな因子の働き掛けで男性、女性に分化していく。その過程で問題が生じ、性器や性腺、染色体が典型的な男女とは異なる発育状態となる疾患。新生児期に外性器を見ただけでは男女の判定が難しいケースは全体の3分の1ほどで、第二次性徴を迎えるころに初めて気づく場合も多い。疾患は70〜100種類とされ、発生は2000〜4500人に1人の割合。国内の推計患者は厚生労働省と日本小児内分泌学会が2009年に行った全国実態調査で約6500人で、実際はそれより1割ほど多い約7000〜7500人とみられる。

 ターナー症候群 女性の染色体XXのうちXが1本なかったり、一部が欠けている状態。1600〜2000人に1人の割合でみられる。身長が低かったり、卵巣の発育が十分でないため第二次性徴が起こらなかったり、心臓病や難聴など合併症を伴う場合もある。ただ約3割の人は第二次性徴があり、約2割の人は生理も起こる。疾患と知らずに生活し、まれだが妊娠・出産に至る人もいる。広義で性分化疾患に該当するが、推計患者数には含まれていない。

  担当・押川恵理子

 

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