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センセイの素顔 学芸員が語る金沢三文豪

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 日本文学史に名前を残す金沢の三文豪、泉鏡花、徳田秋声、室生犀星。でも「文豪」って何だか難しそう…。そこで日夜彼らと向き合う記念館の学芸員3人に横顔や魅力を聞いてみた。「センセイ」の意外な一面を知れば、作品も違って見えるかも。読書の秋、三文豪に親しんでみませんか−。

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関東大震災の時は

 −三文豪の人柄がよく現れているのが1923(大正12)年9月の関東大震災時の行動だそうですね。

【嶋田亜砂子】犀星は8月27日に長女が生まれたばかりで、震災当時、妻子は入院中。実は犀星は1人目の子を亡くしている。また亡くしたか、という気持ちもあったけど、冷静に人力車を確保し、捜しに出て再会した。一家の大黒柱としてよく動いたと思います。

【薮田由梨】秋声は東京に住んでいたけど、めいの結婚式で金沢に帰っていた。後に妻子には「大事な時になぜいてくれなかった」と責められます。当時を書いた「不安のなかに」を読むと、遠方で情報が得られず不安に揺れる様子がよく描かれている。直接の被災者ではないけど、被災地に家族や親戚がいる人と心境がすごく重なる。ただ危機感は薄いというか、当面の問題からは目を背けがちかな。

【嶋】(犀星とは)逆ですね。

【穴倉玉日(たまき)】鏡花は麹町(現千代田区)の自宅で被災して、奥さんと2人で避難する。二昼夜野宿をしたんだけれど、一家の主としては頼りにならない。食料を買うため店に行くけど、潔癖性の彼は魚の総菜にハエが集っているのを見て帰っちゃうの。横に缶詰が置いてあるのに(笑)潔癖性になったのは若いころの赤痢が原因ともいわれているけれど、次第に拍車がかかったようで、震災時も外で用が足せないほど。それでも10日後には体験記(「露宿」)を執筆し、それが単なる被災談でなく随筆として成立しているから、作家としては一番精神力が強い人かも。

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恋人にするなら

 −震災時の行動を見ると夫として頼れるのは犀星のようですが、もし恋人にするなら誰ですか?

【嶋】……秋声さんはどうですか? 女性にもてたようですし、優しかったのでは。

【薮】ダンスホールや銀ブラが大好きだからデートはおしゃれ。でも奥さんは大変だったみたいで、作品内の扱いがひどい。気に入らないことがあると、当たり散らしたりなぎ倒したり。

【穴】釣った魚に餌をやらない人ですね。

【薮】まじめな人ではあるんですが。趣味のダンスの教本を読み込んだり、女性との付き合いも真摯(しんし)で。作家ってちゃんとしてないイメージがあるから(笑)意外でしたね。

【穴】鏡花は、作品は浮世離れしていますが、経済観念がしっかりしている。弟に「家族に苦労をかけるから、貯金ができるまで結婚してはならん」と言ったり。男らしさ、頼りがいとは違うけれど堅実。ただ潔癖性だから世話は大変ですよ(笑)今ならファ○リーズとかル○バを愛用するかも。文壇の除菌王ですね。

【嶋】家庭的な面や生活力といった「生きる力」は犀星がすごい。命や生を見つめ続けた作家ですし。シラミを主人公に小説を書くなど、どんな生命にも肯定的。女性に尽くすし、情熱的な手紙も書いていました。病気の奥さんをものすごく大事にしましたし。他の女性との付き合いも……生前は全くばれなかった(笑)

【薮・穴】恋人はともかく、やっぱり結婚するなら犀星ですね。

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鏡花、秋声を殴る

【薮】2人の師匠である尾崎紅葉が胃がんで亡くなった時ですね、秋声が「甘い物ばかり食べてるからだ」みたいなことを言った。

【穴】すると鏡花が怒って殴りつけた。火鉢を跳び越えて。鏡花は後に紅葉先生の全集や書、遺影を床の間に飾るくらいだから。

【薮】秋声、悪気はなかったんです。殴られた理由が分からず泣いちゃうし。本当は鏡花が好きなんです。

【穴】鏡花の臨終にも、秋声は呼ばれませんでした。亡くなった後に知らせた里見●(とん)が、すごい剣幕(けんまく)で叱られた。つらい役目ですよね。

【嶋】秋声は最期に仲直りしてほしかったんですね。

【穴】秋声の視点から見た鏡花、映像化したら絶対面白いですよ。北陸新幹線開業を機に、誰か目をつけてくれないかな(笑)

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犀星は香箱がお好き

【薮】秋声は甘い物好きですね。特にくじら餅とか、はすようかん。

【穴】鏡花は紅葉先生もお気に入りだった、クルミのあめ煮とかぶらずしを郷土の味として自慢してます。

【嶋】犀星はカニが大好きで、香箱ガニを金沢から送ってもらっていたんですよね。親戚に催促する手紙も残ってます。「この間頼んだけどどう?」みたいな。12月に「香箱始まりましたか」と手紙を出したと思えば、2月に「もう終わった?」って聞いてみたりして。

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まずはこの作品!

 −三文豪の人となりを知ったところで、肝心の作品についても教えてください。

【嶋】初めて犀星を読む人には小説デビュー作「幼年時代」から始まる三部作を薦めます。自伝的で読みやすく、生い立ちや当時の金沢がよく分かる。文体も美しい。犀星は生命に肯定的で、繊細さと純粋さ、五感の鋭さを兼ね備えている。

【薮】秋声で思い入れが強いのは「折鞄(おりかばん)」。実は秋声を読み始めたころは、よさが全然分からなかった。そんな時、この作品に出合い、頭を殴られたような衝撃を受けた。奥さんの死が題材ですが、これぞ作家の技巧、真実を写し取る自然主義文学をまざまざと見せられた。

【穴】私は悩みましたが鏡花の「草迷宮」を推します。高い完成度で、目に見えない世界の存在を表現している。文体も彼にしか書けない。この世ならざるものを描くことでは今も右に出る人はいないんじゃないかな。ラストはね、逆さまになった手桶(おけ)が空に歩きながら道をつくり、そこを魔物が昇って行くんですよ。

【薮】さらりと言いましたが、桶に足はないですよ!

  担当・谷口大河

●は、弓へんに享

 

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