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緑の保養地 記者が「再生」体験 断食 心と体リセット

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 世界のさまざまなグルメが味わえ、24時間営業の飲食店も乱立する飽食の時代に「断食」が注目されている。道場、修行といった厳しい印象が浮かぶが、近年は自然豊かな保養地や都会のホテルでも行われている。心身を休め、普段の食生活を見直して体調を改善させるという。最近疲れやすい記者(35)が体験してきた。

回復食 輝いて見える

 8月上旬、静岡県伊東市の施設「やすらぎの里」を訪れた。1泊2日のプチ断食に備え、前日から食事は控えめに。当日は朝食、昼食を抜いて電車に乗る。空腹自体は苦でないが、車窓に映るキヨスクの「おにぎり」「弁当」といった広告が普段より目に留まる。楽しげにビールを飲む行楽客も…。

 伊豆急・伊豆高原駅から車で10分ほど、施設は深い緑に囲まれた別荘地に立つ。展望風呂から相模灘も望める。利用者の8割は女性で、30〜40代の独身が多い。リピーターも3割を超える。

 ここでは断食の日数と同じ期間、おかゆなどの回復食で過ごす。食事は抜くより、徐々に戻す方が難しい。帰宅後1週間は濃い味付けや脂っこい料理を避けるよう助言された。今回は1泊2日のため断食は半日。初日の午後6時、翌日午前9時に食事を取る。1週間コースは3日間断食し、残り3日間は回復食。断食中は野菜のジュースやスープほか、黒糖の入ったしょうが湯(1日3杯ほど)や梅酢、お茶で糖分などを補給する。

 施設に昼ごろ到着すると、体調に関する面談があり、身長や体重、体脂肪率を測定。簡易な検査で自律神経の乱れもみる。マッサージを受け、自由時間は海沿いまで散歩したり、露天風呂に入ったり、読書やヨガをしてリラックス。

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食生活改善 体で知る

 午後6時、ほぼ1日ぶりの食事。八分づき玄米のおかゆ、梅干し、豆腐と車麩(ふ)の煮物、キャベツと油揚げの煮浸しの質素な献立が輝いて見える。約240キロカロリーほど。薄味で、キャベツや大豆の甘み、昆布や魚のだしが口に広がる。意外と満足感がある。

 翌朝はヨガや気功の体操で体を目覚めさせ、午前9時の朝食を待つ。玄米ご飯、みそ汁、ナスのしょうゆ漬け、切り干し大根の煮物、インゲンのおかか炒め、ホウレンソウのあえ物にデザートの巨峰付き。30分ほどかけて素材を味わい、食べる喜びを満喫する。断食は初めてという東京都の女性会社員(36)は「1日でも体がリセットされる。帰ってからも添加物が入った食品は食べないだろうな」と納得の表情。

 「断食は減量効果など極端な取り上げ方もされるが、食生活を見直すことが最も大切」と、施設代表の大沢剛さん(49)は話す。はり・きゅうの資格を持ち、都内の治療院でさまざまな患者を診ていた時、不調の主因は日常生活にあると感じて、改善を助言してきた。頭では理解しても生活を変えられる人は少なく、「体で分かる」施設をつくった。

 薦める食生活はシンプル。食べ過ぎず、野菜を中心に3食取る。夜型の人は朝食を遅めに食べ、昼食抜きの1日2食でもいい。基礎代謝が落ちてきたら炭水化物の量を調節。食事を減らすだけではリバウンドの恐れがあるので良質なタンパク質、脂肪を摂取する。お酒や甘い物は度が過ぎなければOK。散歩やストレッチなど無理なく続けられる運動も勧める。

 断食中は頭も休める。食べ過ぎ、考えすぎをやめると心身ともスッキリ。前向きな意識を持てた気がした。

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週1日を10年の夫婦

「楽しいから続く」

 金沢市で有機野菜などを味わえる店「百薬キッチン」を夫と営む石田めぐみさん(44)は週1日の断食を10年ほど続ける。疲れやすく、元気になりたい一心で糖質制限や菜食、ヨガ、ウオーキングなどいろんな健康法を試し、たどり着いた。

 普段の食事はテレビやインターネットなどの情報に影響されて決めることもあるが、断食後は「何を食べたいか」を自分の体に聞き、欲した物をゆっくり味わう。満足し、食物への感謝も深まる。「それが1週間に1回あるのは幸せなこと。楽しいから続けている」

 始めた当初は食べ物の消化に費やすエネルギーが抑えられ、免疫力が高まるといった効果を感じた一方、ストイックに結果を求めた。「まだ不調」と現状の自分を否定し、精神的に健康じゃなかったと振り返る。

 「自分の体をコントロールすることは、『こうなってほしい』と親が子どもに求めるのと似ている気がする。まず現状を肯定し、子の思いに耳を傾けた方が良く変わるはず」と考える。

リスクを考慮し慎重に

絶食療法を行う 福土・東北大教授

 民間の断食について「医療面のチェックが大切。気軽にできる治療法ではない。リスクを十分に考慮して慎重に」と、東北大病院心療内科長の福土審教授は話す。

 心療内科は主にストレスによる心身の症状を診る。同病院は過敏性腸症候群をはじめ、合併症状のない肥満や脂肪肝の治療に絶食療法を昭和40年代から行ってきた。症例数は50年代に多かったが、最近は1年に1人いるかいないかという。

 東北大方式は10日間の絶食(アミノ酸などの点滴500ミリリットル、水分1000〜2000ミリリットルは毎日摂取)を行い、5日間かけて通常の食事に戻していく。その15日間は個室でテレビや新聞など外部の情報から遮断され、面会も医療従事者に限られる。厳しい治療のため、絶食が招く危険性を心身の両面から検査し、安全と判断した上で実施する。重篤な疾患があれば行えない。

 体重は平均4〜5キロ減る。減量や食生活のリセットといった直接的な効果のほか、心理療法の側面が大きい。当初はつらいが、絶食7日目ぐらいから意識が清明、さわやかな気分になるという。絶食によって代謝が変化する際にさまざまな治療法と組み合わせて気分の変容を働き掛けていく。

断食の注意点

 断食は高齢者や妊娠中の女性、病気などで体力が落ちている人は適さない。食事を抜いて血糖値が下がり、頭痛や吐き気などの症状が出た場合は糖分を補う。それでも改善しない場合は中止する。お茶など水分は十分に補給を。断食中の入浴は貧血を起こして倒れる恐れがあるため、長湯は禁物。自宅で断食を行う場合は1日程度にとどめる。

 担当・押川恵理子

 

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