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胸キュン 夢の恋 あふれる妄想 ボーイズラブの魅力探る

(C)富士山ひょうた/フロンティアワークス「純情2」表紙より

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 男性同士の恋愛を漫画や小説で描くボーイズラブ(BL)。美男子らが織りなす夢物語は多くの女性の心をつかむ。魅力はいったい何なのか。読むのはもっぱら少年漫画の男性記者(30)が、魅惑の世界に飛び込んだ。(担当・福岡範行)

甘い展開 女性ら「癒やし」

 フリーライターの戸崎は、偶然再会した高校時代の初恋の相手、倉田から迫られる。「俺はお前がいいつってんのに、お前は俺を拒むのかよ。俺は初恋の相手なんだろ…?」。ひかれ合う男性2人を描いた漫画「純情」。金沢市出身のBL漫画家富士山ひょうたさんの作品だ。

 「私の読者は主婦の方とか30〜40代の女性が多い。現実逃避や癒やしを求める部分があると思います」

 女性読者にとって、同性のキャラクターだと、時に現実を思い出し、われに返ってしまいそうになることもあるが、男性同士の恋愛なら、その世界から完全に引いて2人を観察することができる。非現実感の漂う恋物語が、楽しみ方の幅を広げている。

 富士山さんは、主人公らが恋に落ちる心の動きを丹念に描く。「純情」では、同性愛に目覚めた息子を認められない母親も描いた。

 一見リアルな作風だが、話を練るのは「全部頭の中です」。実際の同性愛者に取材はしていない。「下手に現実を知ると、甘めな展開に『こうはうまくいかない』と感じてしまう」。BLはあくまで女性向けの空想の世界だ。

 BLには男性同士が肌を重ねるシーンも登場する。そうしたシーンがコミック1巻に1度もないと、「なぜないの」と問う読者もいる。

 富士山さんは、自然な流れのストーリーを意識し、絵柄も恍惚(こうこつ)とした表情などの雰囲気に力点を置き、「作品のスパイス、エンターテインメントの一つです」と解説する。描き方は人それぞれ。直接的な表現の作家もいる。

 BLの世界は広いと、富士山さんは実感している。短大生時代に参加した金沢市での同人誌即売会で出合ってから描き始め、たまたまBL雑誌の小説に挿絵を描く仕事に誘われた縁で、BL漫画家になった。

 魅力的な話を紡ぐことに頭をひねり、面白さに気づいた。「ハッピーエンドを描くにも、主人公たちの関係性次第で読後感は全然違う。BLもいろいろなバリエーションがあり、深いなと思います」

        ◇   ◇        

BL作品が並ぶアニメイト池袋本店=東京都豊島区で

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 「男性同士のラブを感じるちょっとしたしぐさが、これでもかと詰め込んであるのがBL。夢物語が読めるんです」。中学時代から読む石川県内の女性(35)は、そう胸をときめかす。男性同士のじゃれ合う姿やライバルとの握手などを見ると、2人の深い関係を空想する。「想像と現実は違うと分かってます。小さなしぐさから妄想を膨らませたり、それを仲間内でワイワイ話すのが楽しいんです」

 読み始めたのは、たまたま手に取った漫画がBLだったから。金沢市竪町のアニメや漫画、関連グッズの専門店「アニメイト金沢」をはじめ、BLコーナーを設ける一般の書店もあり、入り口は身近にある。

 BLファンの女性らが多く訪れるアニメイト池袋本店(東京都豊島区)は、BL作品を女性向けフロアに陳列。同じフロアには少女漫画や、女性に人気の少年漫画も並ぶ。

 アニメイトの広報担当者は「BLと少女漫画を両方読む方もいる。人気作品を手に取りやすくしています」と語る。BLの売れ筋は、装丁がおしゃれなものや、ストーリー性が豊かなもの。「困難に立ち向かう愛の純粋さや深さが強調されたものが人気。男性が読んでも面白いと思えるはずです」と太鼓判。母娘で入店する姿も見られた。

 スポーツ漫画のパロディー同人誌など、原作にない日常や、人間関係を想像で描いた作品からBLの世界に入る人も多い。

 金沢市の同人誌専門店によると、地方でのBL書籍の売れ行きは減少傾向で、販売拠点は東京などに集中しがちだという。一方、インターネットには、自作のイラストや漫画を無料で投稿、閲覧しあえるサービスがあり、BLを楽しむ場としても活用されている。

かわいい男性OK 自由に「性」語る場

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 富山市出身のBL研究家金田淳子さん(40)は、男性同士の恋愛だからこそ男らしさ女らしさのステレオタイプから解放される側面を指摘する。

 「男女の恋愛ものでは、男の子のキャラクターが相手に迫られ、恥ずかしがる姿は見られない。女性が受け身なのがお約束」。しかし、現実には、か弱さを抱える男性もいる。BLなら、恋物語のロマンスを確保しつつ、誰かに頼ろうとする男性のかわいらしさも描ける。恋人同士の対等な関係も表現しやすい。

 BLは、女性が性を語る場を守る役割も果たしているという。金田さんは「『Hなことをしゃべっている女は、そうされたいと思っている』という変な誤解がある」と批判。男性が入りづらいBLは、女性が性的なことも自由に語れるコミュニティーをつくりやすい。

 こうした世間の固定観念にとらわれない表現は、多種多様なジャンルを受け入れる同人誌文化に育まれ、広まった。

 BLの源流の一つとされる雑誌「JUNE」が創刊された1970年代、男性の同性愛ものは、世間からの疎外感などが描かれ、文学的な要素が強かった。それが80年代になると、少年誌のスポーツ漫画のパロディーがブームとなり、読者の裾野は大きく広がった。

 近年では、男性の愛読者も目立ち、読み手のジェンダーフリーも徐々に進む。

 18年続くオリジナル作品中心のBL同人誌即売会「J.GARDEN」には、彼氏と一緒に来て、同人誌を選んでいる間は荷物持ちをさせる女性も現れ始めた。抵抗感なくBLを読み、純粋に作品の質を楽しむ男性もいる。運営担当者は「恋愛ものの楽しみは、何かのハードルを越えること。男性同士という壁は、身分の差とかと構造は同じだと思います」と語った。

 ふじやま・ひょうた 1999年、桜桃書房よりデビュー。代表作は「純情」「不測ノ恋情」(いずれもフロンティアワークス刊行)「下弦の月夜の物語」(芳文社刊行)など。「純情」は2010年に映画化された。

 

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