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生きる木 完璧な器に 山中漆器木地師 田中瑛子さん(31)

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 明るく、ときにおおらかに笑う口元が、ろくろに向かうと一文字に結ばれた。石川県加賀市で、木材から器などを削り出す木地師の田中瑛子さん(31)。山中漆器の伝統の技を貪欲に学び、千差万別の木に向き合い、最高の形を日々、追い求めている。

美しさ無限 愛込め削る

 −山中に来た理由は?

 大学時代の漆器作りで木地の制作を職人さんに外注したら、イメージと何か違うことが多かった。そのもやもやをなくしたくて、形も自分で作りたくなった。

 山中を選んだのは、曲線のフォルムが好きで、量産でき、日用で使えるものを作れるから。それで見学に来たら木を削る刃物も全部、職人さんが自作していて、びっくり。最初は何も知らなかったです。

 2年過ぎたら輪島で塗りを学ぶつもりでした。でも、自分でできる範囲で究めた方がいいと思い、絵はセンスないから形にしぼった。そこで初めて、木の美しさや個性に気づきました。

田中瑛子さんの作品

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模様出現「宝探し」

 −作品のこだわりは?

 黒と赤の漆を塗りながら一部をにじませたり、拭き漆で木目を見せたりして、木の表情を残します。実は、木には堅い部分と軟らかい部分がある。軟らかい方が漆が深く入るので、漆を塗った後に表面を研ぐと、堅さのむらが漆の濃淡になって現れます。予想通りの模様が浮かぶか分かるのは、研いでみてのお楽しみ。宝探しの感覚です。

 細菌が入り、黒いすじ模様が出た木も使います。腐る寸前の木なので、捨てられがちでもったいない。液体ガラスでコーティングして、すじ模様を見せます。

 −形もこだわる?

 目で見ても分からないところまで、気にします。器の内側の中央は、刃物が当てにくく凹凸が残りやすい。へそと呼ぶんですが、絶対にないようにします。目に見えないへそも、触れば分かる。指紋がなくなるくらい触って、確かめます。

 師匠には「そこを妥協したら、うちの木地じゃない」とたたき込まれた。妥協すれば、他のところにも出てくる。「この器が私です」と言って世に出すのに、パーフェクトと思えないものは出せない。できないことがあるのはいいけど、できることをやらないでいて「まだまだだね」と言われたくないじゃないですか。

 −負けず嫌いですね。

 負けず嫌いです。

 テレビに出たりすると、「タレントみたいなことして」と言われることもある。中身がないのに女性だから出ていると思われるのは、悔しい。だから、作品は気を抜かない。その時の最高の作品を一生懸命作り続ければ、いつか分かってもらえると思います。

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師匠の「音」に学ぶ

 −つらさもある?

 自分の力不足が悔しい時はあります。修業中、自分が何十分もかかる仕事を、師匠が5分で仕上げて、その上、きれい。音で作業の段階は分かるので、後ろにいる師匠が次の作業に移ると、プレッシャーでした。「早くしろ」っていう無言の空気。でも、そのメッセージに気づけるのは、大事だと思います。

 自分が何でできないのかも、師匠の作業を見て、1個1個確認する。山中は周りにすごい人ばかりだから、気づかせてもらえることが多いです。

 量産品を受注する職人仕事より、自分の作品制作の方が好き。でも、職人仕事を続けるのは、他の人の考えに刺激を受けられるから。人間関係でも、相手の気持ちを感じ取ることって大事ですよね。

 −やりがいは?

 作品は、私を知らない人が気に入って使ってくれたり、違う時代の人が「いいね」って言ってくれるかもしれない。それって、すごく幸せ。

 例えば、ニューヨークの展示に来た方の友人が日本にいて、テレビに出た私を見つけて注文してくれました。すごいところでつながるなって思いました。

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 −最終目標は?

 ずっと続けること。踏み込んだからには死ぬまで続けたいです。頑張り続ければ、渾身(こんしん)の一作もできる気がします。

 無限にある木ごとに合う形を探るので、私も何が出てくるか想像できない。木が傷むので、冷暖房も使えない。生きているんですよ、この人たち。手間はかかるけど、愛しちゃいます。

木地師の仕事とは

 石川県加賀市の山中漆器は、木地作りの技術が県無形文化財に指定され、高く評価されている。

 木地師は、漆器の材料となる木を製材業者から受け取り、乾燥をさせた後に器を削り出す仕事。作家として、漆塗りも自分で行う木地師もいる。

 ろくろに取り付けた木材を回転させながら、L字の鉄棒の先に刃がある「かんな」を当てて、形を作る。かんなは木地師が鍛冶仕事で自作。削る形に合わせて増やし、ベテランなら50本以上持っている。

 山中漆器連合協同組合に加盟する木地業者は30社。

 たなか・えいこ 1983年、愛知県安城市生まれ。美術好きの母親らと一緒に子ども時代から美術館に通った。県立刈谷高校をへて、愛知教育大生涯教育課程造形文化コースで漆芸を専攻し、2005年に卒業。漆塗りだけでなく、形作りから自分で行いたいと同年4月に石川県加賀市の県挽物轆轤(ひきものろくろ)技術研修所に入所。山中漆器の魅力にはまり、ベテラン木地師の工房で修業も積んで、12年4月に独立。13年に米国ニューヨークで2人展を開催。木目を生かす拭き漆の器作りに取り組む。加賀市在住。作品は、同市大聖寺山田町の工芸空間フゾン=木曜定休、電0761(75)7340=で販売している。

  聞き手・福岡範行

 

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