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popresspopress【特集】
 

ひんやり音風景を訪ねて 聞いて体感 水都金沢

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 観光名所をただ巡るのでなく、土地の個性を五感で味わう体感型の旅が注目されている。浅野川、犀川が流れる金沢市は数多くの用水も、市街地に網の目のように広がる「水都」。夏本番も間近。涼しさを感じる音風景に耳を澄ませ、市内を歩いた。(担当・押川恵理子)

浅野川渡り茶屋街へ

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 前夜の雨が上がり、青空が広がった6月中旬の土曜午前、浅野川沿いの主計町茶屋街から旅は始まった。

 案内人は、自然や人工のさまざまな音を風景の一部としてとらえるサウンドスケープ(音風景)を研究する金沢工業大の土田義郎(よしお)教授。学生や会社員ら16人が「中の橋」たもとの主計町緑水苑に集まった。城を守るため囲んでいた金沢城西内惣構(にしうちそうがまえ)跡で、かつては演舞場が立っていた。当時はにぎやかな音色が響いていたのか。想像しながら浅野川大橋を渡り、ひがし茶屋街を目指した。

 出格子の町家が連なる石畳の通り。外国人ら観光客のにぎわいに交じりながら、ピヨピヨピヨピヨ。軒先から愛らしいツバメの鳴き声が聞こえてきた。急ぎ足だと気づかなかったかも。

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 その通りを北側に折れ、宇多須(うたす)神社へ。節分には芸妓(げいぎ)が豆をまき、多くの人が集まる。木々に囲まれた境内に入ると、風に大きく揺らされ、無数の葉が音を立てる。「森の気配がすごく感じられる」と土田教授。鳥のさえずりも耳に心地よい。

高所から聞く街の音

 神社脇の急な坂を息を切らしながら進む。泉鏡花の小説にも登場する「五本松」で知られる宝泉寺へ。高台に上ると、浅野川沿いの街並みが眼下に広がる。肩を寄せるように住宅の瓦屋根が並ぶ。「観光客のざわめきや犬のほえる声、行き交う車の音も聞こえるでしょ。高所に上ると、街の音も俯瞰(ふかん)できる」と教授。

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 石段を下り、草むらの道を抜けて卯辰山方面を目指す。白や紫の花が鮮やかな卯辰山花菖蒲(はなしょうぶ)園に着いて一休み。緑に覆われた涼しい参道を歩き、卯辰、愛宕、豊国の各神社が並ぶ「卯辰山三社」へ。サッ、サッ、サッ、竹ぼうきで掃く音がさわやかに聞こえてきた。手入れをする人たちの思いも感じられる音風景だ。

 参加者の1人、金沢工業大4年の安田大輝(ひろき)さん(22)は「歩きながら自然や生活の音、匂いを感じて、まちへの興味が深まった」と話す。

小さな滝に耳澄ませ

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 広々とした常盤町緑地を横切り、浅野川沿いにいったん下りる。上流に向けて数十メートルほど歩いて左折し、住宅の間の細い道を再び上っていく。目指すは、今回お目当ての常盤滝だ。

 不動尊がまつられた奥に“緑の断崖”が見えた。落差は4〜5メートルと、こぢんまり。卯辰山からの湧き水が3筋ほどに分かれ、流れ落ちてくる。豪快な滝とは一線を画する脇役のような渋い味わいが魅力だ。ひんやりした空気の中、目を閉じ、水流に耳を澄ませた。「小さな滝のメロディー」。ひっそりつぶやいた自分のダジャレで心身ともすっかり涼しくなり、帰路に就いた。

機能、景観…魅力あふれる用水

金沢工大教授 土田義郎さん

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 風鈴、虫の音、鳥の声をめで、庭に水琴窟(すいきんくつ)や滝をしつらえていた日本は、音風景に近い概念が昔からあったと、金沢工業大の土田義郎教授は話す。

 金沢市内は55もの用水が流れ、総延長は150キロに上る。その環境を守っていくため市は1996年に用水保全条例を制定。ふたの架かった地下水路が多かったが、せせらぎが見えるように景観面の整備も進めてきた。

 「水の豊富な用水がこれほど張り巡らされている都市は他にないのでは。金沢のアイデンティティーの一つ」と土田教授。防火や農業などの機能面に加え、景観の魅力も重視する。水の音風景を巡るなら、水量が豊かな春先から初夏の季節を薦める。耳を澄ませて時に立ち止まりながら歩き、午前中の早い時間帯なら鳥のさえずりも楽しめる。

(左)大野庄用水の三社どんど=金沢市三社町で(中)宝円寺近くにある百々女木の旧町名標識=同市宝町で(右)馬坂にある不動尊=同

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 地名に着目して巡るのも面白いと土田教授。市内で最古の大野庄用水にある「三社どんど」(昭和町、三社町)や、加賀藩祖前田利家、まつの寺として知られる宝円寺近くの旧町名の百々女木(どどめき)(石引、宝町)。どんど、どどめきは、水がザアザアと勢いよく流れる様子を表していた。その近くを流れる源太郎川、勘太郎川は水流を管理していた人の名前に由来するとか。

 宝町と天神町を結ぶ「馬坂」は、農民が馬を連れて行き来したという。その途中に不動尊がある。その背後に、ちょぼちょぼとわずかな水の流れがある。「この一帯は昔、湧き水が出て、水路も豊かだった」と、近所で生まれ育った70代女性。「手を清めてお参りし、夏場は買い物や病院帰りに冷たい水を飲んで一息ついていたよ」と懐かしんだ。現在の風景だけでなく、過去の風景、人々の暮らしを思い浮かべながら歩いてみては。

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