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声で名作 自分色 朗読 はまる若者たち

「ヴォイスサークル金沢」の発表会で朗読する林恒宏さん(左)、中川佳奈さん=金沢市内で

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 インターネットの発達した今日この頃、メールやツイッターに感情を込める半面で、生の声で思いを伝える機会が減った気もする。そんな中、石川県野々市市で若者たちが朗読会を始めたという。子どものころは苦手だったけれど、久しぶりに挑戦してみるのもいいかも−。会をのぞかせてもらった。

なりきり快感

 「この気もちはなんだろう 枝の先のふくらんだ新芽が心をつつく…」

 4月中旬の平日夜。野々市市のカフェ「五十川(いかがわ)堂」に、谷川俊太郎さんの詩「春に」が響いた。記者を含め、金沢や近郊に住む20〜40代の6人が1人ずつ読み上げる。全員、素人。「声がいいですね」「明るく転調したのが良かった」。それぞれが読んだ後、他の人たちが聞いた感想をざっくばらんに話す。

 作品の批評も次々と。「入学式みたい」と中田淑子さん(28)。主宰の五十嵐美恵さん(34)が「ティーンエージャーの前半の感じだよね」と賛成する。カフェ店主の五十川員申(かずのぶ)さん(30)は、「俊ちゃんはやっぱりリズムが独特」。大詩人の旧友のような口ぶりだ。

 わいわい言いながら何回も聞くうち、詩のイメージも深まってくる。「出たいけど出られない、けど出たい、みたいな」と春そのものの気持ちを代弁したのは山崎愛さん(28)。五十川さんは「あの空のあの青に…」という一節を挙げて、「遠い目をして読みたいね。おれが見てる青空がリスナーに届けば」。名ナレーターになりきっている。

朗読会で議論を交わす五十嵐美恵さん(左)、五十川員申さん(左から2人目)ら=石川県野々市市のカフェ「五十川堂」で

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読み方で一変

 会が始まったのは昨年12月。五十嵐さんは3年前、うまく話せるようになりたいと話し方の教室に通い、詩や小説を朗読する楽しさに目覚めた。「いろんな人になれる。男にも、子どもにも、人間以外にも」

 しかし、朗読教室に行くと年配の人が多く、気が引けた。昨年11月、飲み会で友人に「朗読したい」と言ってみたところ、五十川堂で試すことに。カフェでさまざまな活動をしている五十川さんも感化され、正式に始めた。月1回、誰かが持ってきた題材を全員で読んでいる。

        ◇

 続けて取り上げたのは、戦前の作家、梶井基次郎の「桜の樹の下には」。男女3人ずついたので、女チームと男チームに分かれて「対戦」した。語り手が、桜が美しいのは木の下に死体が埋まっているからだと説く常軌を逸した話だ。

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 「春に」を通じて、声の大きさだけでなく、速さや音程によっても雰囲気が変わると知った記者。「人間のような屍体(したい)」「たらたらと」といった表現をゆっくり読み、気持ち悪さを強調してみた。終わって「良かった」とほめてもらい、うれしくなる。

 この作品にも議論百出。「お前」と誰かに語りかける書き方を、山崎さんは「もう一人の自分に話している」と解釈。五十川さんは「屍体」について、「語り手は女を殺している」との深読みを披露した。

 この日はプロのナレーター、林恒宏さん(46)も来て、最後に太宰治の「黄金風景」を読んでくれた。声だけで物語の世界を鮮やかに立ち上がらせるさすがの技。こんなふうに読めたら、と全員で聞きほれた。

表現の道 極める

 より本格的に朗読に取り組む若者も。野々市市の中川佳奈さん(34)は、学生時代から演劇に打ち込み、表現力を磨こうと朗読も学んでいる。林さん主宰の「ヴォイスサークル金沢」に通い、10年ほど。「子ども向けに怪談を読んだとき、集中して聞いてくれているのが分かって楽しかった」。一方、難しいと感じることも多いとか。「ちゃんと表現できていると思っても、そう聞こえていなかったり。自己満足じゃなく読むのは大変」と話す。

朗読を披露する高輪真知子さん=金沢市尾張町の「朗読小屋浅野川倶楽部」で

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公演で魅力 体感

 読むのが苦手なら、聞いて楽しむのもいい。毎年春と秋に公演している金沢市尾張町の「朗読小屋 浅野川倶楽部」の代表、高輪真知子さん(63)は「それぞれが自分の中のいろんなものを重ねて聞くので、同じ物語でも違う世界が広がる」。事務局の表川なおきさん(38)が引き取って、「聞く側の能力も試されるんです」。

 あえて石川県ゆかりの作品に絞って朗読する。「読むひまがなくても、『耳で読む』ひとときを。地域の文化財産は、地域の人が楽しまないと」と誘う。

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本格マンガ 連載

 とは言っても本読まねーし、という人には、朗読マンガがある。小学館の「ビッグ コミック スピリッツ」に連載中の「花もて語れ」=写真。就職で東京に出てきた引っ込み思案の22歳、佐倉ハナが、子どものころから好きだった朗読を通して自分の世界を広げていく。

 「初の朗読マンガでは」と担当の高島雅(まさし)さん(44)。朗読家が「共著者」として携わっただけに、朗読の部分も本格的。作品をより深く読むことにもつながると教えてくれる。宮沢賢治、芥川龍之介らの名作を、新たな発見とともに読めること請け合い。

  担当・日下部弘太

サークル、イベント案内

 五十川堂朗読会 毎月1回、第3木曜日を中心に午後8時から野々市市扇が丘の五十川堂で。(電)076(225)4347

 ヴォイスサークル金沢 月末を中心に、金沢市内で発声の基礎と朗読を学んでいる。メンバーは10〜60代の25人ほど。年1回の発表会のほか、図書館などでの公演も。(電)080(1960)7790

 朗読小屋 浅野川倶楽部 40歳前後〜80代の60人が練習に励む。年2回公演。今年秋は10月半ばから11月にかけて、金沢三文豪を中心に朗読する予定。(電)076(261)0837

 「風の王国」朗読会 高輪真知子さんが、五木寛之さんの小説を朗読。第2回は6月8日午後2時から、金沢市尾張町の金沢文芸館で。無料(入館料100円)。7〜12月も毎月開く。(電)076(263)2444

 

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