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未来 反抗心で写す  

写真

 洗練されたファッション写真、街角で人目を引き付ける広告。金沢市にアトリエを構える福島県出身の写真家・鈴木心さん(33)は商業写真の最先端を走る。福島第1原発事故後は故郷に通って撮影。子どもたちに写真を教えるなど交流を続ける。利権のため原発推進に流れる権力者を「人間として生き方がださい」と言い切る。写真も生き方も、原点に反抗心がある。(聞き手・押川恵理子)

「違っていい」両親から

−「反抗心」はどこから?

 学校や世の中のルールも根拠がなければ従わなくていい。学生運動をやっていた母親はそんな考え方で、自然と影響を受けた。

 宮城県で開業医をしている父親は自転車や時計、カメラなどを集めるのが趣味で、子どものころ、同級生と同じ漫画とかのリュックが欲しいのに、父が買ってくるのは登山メーカーのレアな商品。物を選ぶ理由があり、みんなと同じである必要はないと教えられた。

 両親の価値観が混ざって育ち、大勢に帰属する意識が薄い。相手に嫌な思いをさせるとしても、自分の意見をはっきり主張する方が、思ってもいない別のことを言うよりもいいと思っている。だから友だちも少なくて、中学、高校時代は精神的に孤独だった。

 紛争や人種差別、資本主義の問題などを曲に乗せて伝える米国のロックバンド「Rage Against The Machine」(レイジ・アゲンスト・ザ・マシン)が好きで、音楽を志して高校卒業後はバンド活動。20歳の時に「ぷらぷらしているなら家を出てけ」と親から言われ、音楽をやる時間をつくりたくて大学へ。形式的に写真を専攻し、最初は撮り方も知らないし、全然面白いと思わなかった。被写体を選ばなきゃいけなくて、女の子を撮ろうと。原宿に通ってかわいい子に声をかけた。撮った写真を早く見たいから、現像もプリントも急いでやる。作業を覚えるうち、写真の技術と自分の興味が結びついた。

(左)2012年のNHK大河ドラマ「平清盛」のポスター=鈴木心さん撮影(右)2004年からホームページ「suzukishin.jp」に日々撮った写真を公開している。10万枚近くあり自由にダウンロードできる

写真

−写真家の道に進む。

 子どものころにピアノや水泳、ラグビー、空手、習字、カブスカウトをやらされていて、どれも嫌で嫌で仕方なかった。できないし、興味もないから。写真は純粋に楽しかった。

 写真は目の前にある情報を再整理して伝えることが仕事。こんなふうに理解されているものが、実はそうじゃないと提示する。反抗心というか、ものの見方が役立って、自分の写真の需要が生まれていると思う。

 大学の初めに撮った写真も、今のものと変わらない。それは考え方がシンプルだから。良くないものは撮りたくないし、無理に良く見せようとしない。ありのままを受け止める。良く見せるには新しい解釈を与えればいい。そのため徹底的に被写体と向き合い、いろんな状況に対応できる知識や分析力、技術を磨いた。仕事で使うカメラは2種類。アイデアが重要だから、道具には頼らない。

−道具に依存しない姿勢は生き方にも通じる。

 アトリエも車も全部なくなったとしても、自分のやりたいことはできる自信があります。僕が生み出すのは現象で、物じゃない。物質でないさまざまな情報を共有できる時代、新しい生き方に踏み出さないと。

 誰が一番とか、自分はダメ、あの人みたいになりたいとか、物事の価値はランキング的にとらえられがちだけど、そもそも生物として違うポテンシャルを持っている個人を一つの尺度にはめて比較するのはナンセンス。2012、13年は数え切れないくらい福島に通って原点と向き合い、自分らしい生き方が見えてきた。

 例えば、ミュージシャンらクリエーターが自分の培った知識を子どもたちに教えることで食べていける事例をつくること。どちらもハッピーになれるように。

福島第1原発周辺で定期的に撮影を続けている=2013年8月、鈴木心さん撮影

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福島の子の夢 後押し

 福島県郡山市の母校で小学生に写真を教えるうち、子どもたちは元気で、よく発言もするけど、今の教育じゃ才能は育たないと感じた。郡山は企業の支店が集まり、転勤族が多い。バラバラの地域が合併してできたまちで、駅前の店舗は経営が悪くなれば出て行く。土地に連帯感がない。

 人を応援する土壌をつくり、才能を芽吹かせる。応援された側が次の才能を後押し。東京で培った人脈を生かして、才能を加速させるような刺激を輸入し、子どもたちの夢をはぐくむシステムを福島からつくる。

 昨年は福島によく通ったので、これから金沢に来る機会を増やしたい。工芸が盛んなまちで、デジタルの時代に写真を手でつくることを学び直そうと思っている。昨年は暗室作業などのため60日ほど滞在。今年はワークショップと写真館の仕事を積極的にやりたい。誰かの肖像を撮ることは商業写真の原点。写真を通じ、どうコミュニケーションを生み出していくか。そこが面白いと感じている。

社会変える枠組みを

−原発問題はどうとらえていますか。

 個人的には、こんだけ迷惑こうむったから使ってほしくない。そう思いながら福島第1原発の周辺を撮ったデジタルカメラは原発推進派の企業が製造し、しかも電気を使う。原発の「輪」に自分自身も取り込まれている。現状を変えるには、ただ反対するんじゃなく、違う「フレーム」を社会につくらないと。

 僕らが生きていられるのは先人のおかげ。環境を改善し、次の世代に渡すことが役目だと思っています。政治も経済も上に立つ人が既得権益に足を引っ張られ、それをやっていないのは、人間としてださい。

 それを言葉で訴えるのもどうかと思うので、行動で変えていきます。したたかに。

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 すずき・しん 1980年福島県郡山市生まれ。東京工芸大写真学科卒業。制作会社から独立し、広告や雑誌、アーティストの撮影などの分野で活躍する。撮影のため数回訪れた金沢市を気に入り2012年12月、アトリエを構えた。活動は商業写真、アート、ワークショップ、福島の4テーマが柱。04年から自身のウェブサイトで、自由に撮った作品を日々掲載。無料でダウンロードもできる。作品集に「写真」(ブルーマーク)や「高良健吾 海 鈴木心」(赤々舎)。妻は女優の坂井真紀さん。

 

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