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仕事があれば 更生できる 民間企業発 出所した若者支援

掃き掃除にいそしむナオトさん(右)と黒川さん=いずれも大阪市福島区で

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 「償う」ためにも、きちんとした人生を歩んでほしい−。少年院や刑務所を出た若者に働く場所を提供し、立ち直りを支える取り組みを関西の中小企業が始め、全国へ広がりを見せている。出所・出院者を家族や親のように支えるという意味を込めて「職親(しょくしん)プロジェクト」と名付けられ、5年間で100人の採用を目指す。大阪市内の現場で、経営者と若者それぞれの思いを聞いた。

少年院で面接→採用

 大阪市北西部のJR野田駅にほど近い美容室。2月上旬、ナオトさん(18)=仮名=が客の受け付けや床の掃き掃除に忙しく働いていた。

 ナオトさんは、窃盗罪で少年院に入り、昨年12月に出たばかりだ。院にいる間に面接を受けて採用が決まり、出院と同時に働き始めた。「最初は変な目で見られないか気になったし、恥ずかしくてもじもじしていた」と振り返る。だがそれもつかの間。「普通に接してくれるし、恥ずかしさを感じていられないぐらい、仕事に慣れることに精いっぱいになった」と笑う。

 上着を預かり、帰る客に着せてあげるのもナオトさんの大切な仕事。初めはぎこちなかった一つ一つの動作も、だんだん様になってきた。当面の目標は、予約の電話を取れるようになることだ。

黒川さんからフロント業務を学ぶナオトさん(右)

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 少年院に入る前も、バイクの無免許運転や別の盗みで警察の世話になったことがあった。その時は「ヘマしたな」ぐらいにしか思えなかったが、院で1年近く過ごすうちに反省を深め、「もっと大きな事件を起こす前に捕まって良かった」と考えるようになった。

「暴走行かなくなった」

 地元に帰ると、昔の付き合いで悪い方に流されるのが怖い。今は美容室を経営する「プログレッシブ」社長の黒川洋司さん(42)に寮を用意してもらい、一人で生活している。

 美容室の仕事を選んだのは、人と接する仕事がしたかったから。ラーメン店で少し働いた経験があるだけで、仕事は新鮮だ。朝は就業前に40分間、黒川さんと町の清掃活動を続け、閉店まで働く。「以前は休みのたびに暴走に行く毎日だった。今は仕事があるから、そんな余裕がない」

 最近、親に電話で近況を伝えた時、ほっとしてくれているのが声で分かったという。「親孝行がしたい。そのためにも人を笑顔にできる一流の美容師になりたい」。いずれは通信教育で美容師の資格を取るつもりだ。

道外した自分の務め

 「職親プロジェクト」は昨年2月、日本財団の支援で関西の7社が始めた。少年院や刑務所に求人を出し、面接に行く。経営者には、犯罪被害者の遺族や非行経験者もいる。

 黒川さんも「自分にも荒れていた時期があった」と明かす。23歳の時、傷害事件で逮捕された。「視野が狭く、自分勝手な生き方をしていた」。執行猶予付きの有罪判決を受けてからは犯罪こそしなかったが、「まだ自分勝手な考えは残っていた」。

 少しずつ変わったのは、道路工事の作業員や建装会社の共同経営を経て、32歳で美容室の経営を始めてから。なじみの年配客に「ありがとう」と言ってもらえることに、お金をもらい、人の役に立てる喜びを見いだした。

 35歳で母親を亡くしたことも大きな転機に。母子家庭で女手一つで育ててくれ、どんなに罵声を浴びせても、罪を犯しても、自分のことを見捨てなかった母親。「残りの人生は母に恥ずかしくない生き方をしよう」と心に決めた。

 経営塾に通ったり、児童養護施設で髪を切るボランティアを始めたりすると、次第に出会う人や環境も変わっていった。

 そんな矢先、職親プロジェクトを知った。「自分が道を外していたことも何かの意味がある。まさに自分の役割だし、ぜひ参加したいと思った」と振り返る。

 ナオトさんが言うように、あくまで「普通」に接する。「採用したからには慈善事業とは考えていない。あくまで戦力として働いてもらいたい」

 少年院や刑務所に入る若者は複雑な家庭環境を抱えるケースも多く、「社会の被害者」とも感じる。仕事や周囲の支えで立ち直ることができた自らの経験を生かし、サポートしていく考えだ。「過去は変えられなくても未来は変えられる」から。

 職親プロジェクト 刑務所や少年院を出所・出院した人に仕事を提供し、再犯防止につなげる取り組み。殺人、薬物犯罪、性犯罪など一部の罪を除き、初めて入所した人のうち、若い世代を主な対象とする。飲食店や建設業など関西の7社で発足し、関東や北海道、九州などの計11社が参加、もしくは参加の意思を示している。複数の民間企業が連携して出所・出院者の社会復帰を雇用面で支援する活動は全国初。

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就労の有無 再犯率に直結

11年度の犯罪白書

 刑法犯の認知件数が近年は減少傾向にある半面、検挙人数に占める再犯者の割合は1997年から一貫して上昇。2012年には45・3%と過去最悪となった。検挙された少年に占める再非行少年の割合も、同様に上昇傾向にある。

 11年度の犯罪白書は「少年・若年犯罪者(20〜29歳)の実態と再犯防止」を特集。少年院を出た若者の追跡調査で、4割が25歳までに罰金刑以上の刑事処分を受けていることが分かった。その要因を当事者に複数回答で分析してもらったところ、「学業や仕事が見つからない、続けられない」は31%を占め、43%でトップだった「悪い交友関係が続いた」に続いた。

 再犯時の仕事の有無では、仕事をしていない場合は、している場合に比べて再犯率が5倍も高い。こうした背景もあり、白書は「就労の有無が犯罪に影響している」と指摘。生活基盤の確保▽人間関係の構築▽社会性を身に付ける−などの観点から、仕事を持つことの意義を強調している。

 担当・角雄記

 

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