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つむぐ「赤い糸」 映像作家 金沢市出身 奥下和彦

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 画面に1本の赤い線。それが生きているかのように動きだし、成長、恋愛、人生の場面をつむいでいく。独自の一筆書きによるアニメーション「赤い糸」で注目を集めた金沢市出身の映像作家、奥下和彦さん(28)。作風通り、温和にほほ笑みながら、「暴力的な音楽と合わせた映像も作ってみたい」とも話し、新しい表現を追い続ける。

−子ども時代は?

 クラスに1人はいる絵が上手な人というポジション。テレビゲームの「スーパーマリオ」や手塚治虫さんのアニメが好きで、小学3年の時、人形などを少しずつ動かして8ミリビデオで撮影し、こま撮りのアニメも作っていました。中学から画塾にも入りました。

 絵と同じぐらいサッカーも好きでした。幼い頃から続けていたけど、高校で部活に入ると実力差を感じ、美術部へ。サッカーから逃げたと思われるのが嫌で、絵を究めるぞと。

 レオナルド・ダビンチの「モナリザ」、ドガやピカソの作品、漫画家の赤塚不二夫さんや松本大洋さん、大友克洋さんらの絵を毎日模写してました。絵がすごいなって思うと、どうやって描いているか知りたくて。作者が見ていた「世界」を共有というか追体験できる感じが面白かった。

 インターネット上の画面を共有する「お絵描きチャット」も日課で、プロのイラストレーターや漫画家も参加してて、刺激されました。高校の授業中も先生の似顔絵や教室全体をスケッチ。絵がうまくなりたい一心で、正月も休まず、朝起きて、寝るまでずっと描くとか、修行僧みたいな生活でした。

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−ビョークらのミュージックビデオで知られる英国の映像作家、クリス・カニンガム氏の作品に驚き、絵から映像の道へ。

 怖くて美しい映像。大学浪人中、金沢21世紀美術館で見ました。音楽と映像が一体化し、そこに「世界」が存在している。衝撃で、ころっとやられて、僕も映像で「世界」をつくりたいと。

 映像の動感をつくるのは音楽だと思っていて、動きを彩り、見える形にするのが映像作家。金沢美術工芸大に進学後は、ダンスミュージックのクラブイベントで音楽に乗せて映像を流したり、金沢市内の映像会社でCMの絵コンテを描いたりしてました。美大はいろんな表現を味見できるけど、自分に寄り添った勉強は学外にあったから。

−勉強熱心ですね。

 いや、不真面目な学生でした。当時の彼女がすごい好きで、デート代を稼ぐために絵コンテを描いていました。高校時代の修行僧みたいな生活から一気に解放され、ああ人生って楽しいなって。人を好きになるということも学びました。

 浪人中から3年ほど付き合い、大学4年の直前に振られました。半年ぐらい、無気力。卒業制作もやる気が起きない。ぎりぎりになって、担当の先生と話しながら、浮かんだテーマが「つながり」。職業が違う人でも悩むことは共通するし、恋愛に限らず、人はつながって生きていると、昔から感じていて、それを赤い線で伝えてみようと。

 一筆書きのアニメーションは独自の試み。パソコンと連動した専用ボードにペンで描く「ペンタブレット」を使いました。実際の映像を下地に1こまずつ描いていく手法で、試行錯誤しながら、手がつりそうになりながら、1カ月半で仕上げました。アニメーションは忍耐力です。4、5分の作品で3000〜4000枚描かなきゃいけない。毎回しんどいけど、高校時代に毎日描いていたからか、そこまで苦にならない。

−完成した「赤い糸」はビル・ゲイツ氏やジェームズ・キャメロン氏らが参加する講演会「TED」でも上映され反響を得た。

 創作の根底には「人」があります。現代はすぐ流行(はや)って、すぐ廃れる。そのサイクルに僕の表現もあるけど、一筆書きなら普遍的なものを生み出せるんじゃないかと。世間はどんどん変わるけど、僕らがもともと持っているものは変わらない。ごはんを食べればおいしいし、疲れたら寝る。デジタル化で表現の場は多様化していくけど、最終的なアウトプットは人が見たり、使ったりするサービス。人間らしいところは変えたくないなって。

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 今の作風と正反対だけど、暴力的な音楽とか凶暴性を感じさせる作品もやってみたい。クリス・カニンガムの作品は今も指針です。僕、一方で「ひつじのショーン」とか優しい作風も好きなんです。二面性ですよ、ちょっとぐらい矛盾あった方が人間は面白いでしょ。

 こんな作品を見たいという好奇心があって、世の中にないから自分で創ることが多いです。自分自身が最前列の観客でもある。心を動かすものって何だろうって、最近さまよっています。表現で冒険するには成長しないと。攻めていきたいですね。

 聞き手・押川恵理子

 おくした・かずひこ 1985年金沢市生まれ。金沢美術工芸大視覚デザイン科卒業、東京芸術大大学院アニメーション専攻修了。大学の卒業制作作品「赤い糸」(2009年)が国内外から注目を集め、ビル・ゲイツ氏らをゲストに招いた講演会「TED2010」でも上映された。大学院在学中にテレビ朝日のニュース番組「報道ステーション」のオープニング映像作品を手掛け、11年のグッドデザイン賞を受賞。学生時代に中田ヤスタカ氏の音楽ユニット「capsule」のライブで音楽に乗せて映像を流すVJとして共演した。

 

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