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美醜超越 奇才の軌跡 北陸の前衛芸術家 小野忠弘さん 生誕100年

1993年の作品「ポストエスニック」

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 廃材を交えて制作する芸術「ジャンク・アート」。大胆な素材の組み合わせや構成は、見る人に強烈な印象を残す。この分野で世界的な評価を受けた前衛芸術家が北陸にいた。福井県に60年近く住んだ故小野忠弘さん(1913〜2001年)。ゆかりの地で14日まで開催中の生誕100年の記念展「小野忠弘と美・未来」を訪れ、その魅力につかってきた。

三国で九つの企画展

 さびた鉄筋が何本も無造作に絡み合い、褐色に塗られたガラスの浮きや金網の上を、白い絵の具の線がランダムに走る。1辺が2メートル近い作品の迫力に引き込まれる。初期の代表作「アンチプロトン」だ。

 絵画とも造形ともとれない。福井県立美術館学芸員の西村直樹さん(46)は「絵画と彫刻の差異をなくす、壊すのが自分の仕事と語っていた」と解説する。

 同県坂井市三国町の2カ所をメーン会場に計28点の作品を並べ、九つの企画展を開く記念展では、小野さんの住居兼アトリエに建てられたギャラリー「ONO MEMORIAL(オノ・メモリアル)」(緑ケ丘3)に展示されている。

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米誌「世界の7人」に

 小野さんは米国の雑誌「LIFE」が1959年に選んだ「ジャンクアートの世界の7人」に、現代美術の先駆者マルセル・デュシャン(1887〜1968年)らとともに名を連ねた。人が捨て去り、踏み付け、顧みないものの中に「美の本質」があると考えていたという。「表現したのは廃虚の感覚。一般の美意識の外に捨てられた『美の残骸の堆積物』とも呼べる」と西村さん。

 多作としても知られ、1辺の長さが1メートルを超す大作だけでも数百点、未発表のドローイング(素描)などを含めると数万点は残した。

 記念展中、町の郷土資料館「みくに龍翔館」(緑ケ丘4)では晩年の作品「ポストエスニック」などが並ぶ。このうちシリーズ作品「BLUE」は、青を基調にした画面に鉄くず、空き缶、パイプなどを組み合わせ空間を構成。「美意識の総結集」を目指したといわれる。

個人の美学貫き通す

 青森県弘前市に生まれた小野さんは東京美術学校(現・東京芸術大)を卒業。1942年に旧制三国中学(現・県立三国高校)に赴任し、88歳で亡くなるまで創作に励んだ。

 日本を訪れたフランスの美術評論家の目に留まり、世界に知られるように。現代美術の国際展覧会のサンパウロビエンナーレ(59年)、ベネチアビエンナーレ(60年)に相次いで出展し、活躍の場を世界へと広げた。東京やニューヨーク移住の誘いもあったが、なぜか三国に好んで住み続けた。

 この地に浮世絵師の東洲斎写楽が住んでいたという昔の学説に関心を持ち、北前船交易で栄えて骨董(こっとう)品が多かったことにひかれたなどの理由を本人は挙げたとされるが、「本当の胸の内はよく分かっていない」という。

 「個人の美学を貫き通す一匹おおかみのような人だった」と振り返るのは、20年近い付き合いがあった元福井市美術館長で三国町在住の松村忠祀(ただのり)さん(77)。「単にきれいなものは素人でも作ることができる。小野先生は醜いものも含めて創造できる芸術家だった」と評価する。

「アンチプロトン」が展示されたONOMEMORIALのギャラリー内=福井県坂井市で

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「廃虚の感覚」表現/題名に重き置かず

小野作品鑑賞のヒント

 がらくたや廃品を使うジャンク・アートには、大量生産や物質文明への批判的視点が読み取れる。美術史では、既製品そのものや少し手を加えただけで作品にする「レディメイド」の概念や、第2次世界大戦後に起こったアンフォルメル運動(形を否定する美術)に連なる。マルセル・デュシャンは便器を「泉」と題して美術館にそのまま展示し、衝撃を与えた。

 小野さん自身は物質文明への批判を意図しておらず、「廃虚の感覚」「美の残骸」を表した。福井県立美術館学芸員の西村さんは「世界に通じる日本的な作品」と解説する。

 工業製品の廃材を使うのはジャンク・アートの常とう手段だが、西洋のアーティストが便器や車輪といった素材を即物的に使ったのに対し、絵の具の線を加えるなどした小野さんの表現は「感覚的」と捉えられた。こうした表現自体が、西洋の美術関係者からは東洋的、日本的と受け取られた。

 作品のタイトルも気になる。例えば「アンチプロトン」のアンチは「反対」、プロトンは「陽子(原子核を構成する素粒子)」を意味する英単語。

 実はタイトルに重きを置いていなかったという。意味を聞かれれば、その都度もっともらしい解釈を説明したが、どれも本意ではなかったとみられる。

 担当・角雄記 ※次回は5日付Human Recipe。石川県輪島市出身の画家、日野之彦さんに迫ります。

 

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