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popress【Attention!】注目のトレンドから地元の話題まで
 

年を重ね 続く進化

重力をテーマにした作品の前に立つ篠田さん(黒羽俊之氏撮影)

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 加齢にあらがう「アンチエイジング」がもてはやされるけれど、年を重ね、経験を積むことは素晴らしい。80、90代を迎えてなお進化し、芸術の新たな境地を見せて若い世代に刺激を与え続けている人たちがいる。ナイスエイジング! 敬老の日(16日)を前に、かっこいい大先輩に迫った。(担当・押川恵理子)

つくることは快楽

 「美術家ってかっこよくなきゃだめ」と切り出し、彫刻家の篠田守男さん(82)はタバコをくゆらせた。

 のどかな茨城県土浦市のアトリエには「シノモリ」を慕い、筑波大や金沢美術工芸大の教え子らが集まる。

 重力に抵抗し、金属を中空に浮かせた一連の作品「Tension&Compression」で知られる。今春の個展では重力の可視化に挑み、新境地を開いた。

 「つくりたくて仕方がない」。ふと見た田畑の造形からもアイデアを得る。創造は「業というか、快楽」。

 幼いころから好奇心が強く、道路工事や建築現場の作業を数時間見続けることも。戦後の混乱期、通商産業省(現・経済産業省)に就職。芸術に縁はなかったが、1954年から産業工芸試験場で工芸にデザインを導入する仕事を担う。同僚は東京芸術大の前身、東京美術学校の出身者が多く、刺激を受けた。

 好奇心から彫刻をつくりだすと、公募展で新人賞。歯車が回りだした。勢いづけたのは、米国の建築家で思想家のバックミンスター・フラー(1895〜1983年)の構造理論。

(右)作品について話す篠田さん(黒羽俊之氏撮影)(左)1963年ごろ、米イリノイ州にバックミンスター・フラー(左)を訪ねた

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 軽い骨組みと膜で大空間を覆うドームを発案したフラーの理論を知って傾倒。張力と圧力で大きな金属を中空に浮かせる独特の作風を生み出した。

 通産省から米国に留学。「イージーゴーイング」なシノモリは費用を早々に使い切る。お金のため、くず鉄で彫刻をつくり、売ったところ評判に。現地の新聞紙面も飾った。

 幸運の持ち主は以後、日米で彫刻家、教育者として活躍。小説家のヘンリー・ミラー(1891〜1980年)や彫刻家のイサム・ノグチ(1904〜88年)と交流し、有名、無名で人を区別しない生き方などを学んだ。自身も教え子と対等な関係を貫く。

 「刺激し合える人と出会っているから、病気している暇がない」。実は、がんも克服したシノモリ。白ワインをごくりと飲み、にっこりした。

 しのだ・もりお 1931年東京生まれ。52年通商産業省へ、青山学院大を翌年中退。63年アート・インスティテュート・オブ・シカゴに留学。カリフォルニア大やコロラド州立大の客員教授、筑波大教授、金沢美術工芸大大学院専任教授などを歴任。66年ベネチア・ビエンナーレに出品。数々の賞に輝き、2000年には国際彫刻センター優秀彫刻教育者賞をアジア人として初受賞。

 極小美術館(岐阜)で今月15日から、アートスペース羅針盤(東京)で16日から、グループ展。10月26日から西脇市岡之山美術館(兵庫)で個展を予定。

今年4月、自身の誕生会で演奏する室井さん=東京都内で(前康輔氏撮影)

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音色に発見求めて

 86年。ピアニストの室井摩耶子さん(92)が鍵盤と向き合ってきた歳月だ。今も毎日4時間、公演前は8時間の練習を続ける。

 「和食だと集中力が1時間で途切れちゃうけど、お肉なら4時間は大丈夫」。“肉食女子”は料理も買い物も自分でこなす。

 「モーツァルトやベートーベンの天才ぶりが分かったのは最近」と明かす。6歳6カ月6日目で女子は芸事を始めると良いという習わしに従い、親から贈られたピアノ。本格的に習い、東京音楽学校(現・東京芸術大)に進んだ。指は鍵盤を上手に動いても、演奏に納得がいかない。海外の名演奏をレコードで聴くと「上手、下手の差でなく、種類が違った」。

 1956年、「モーツァルト生誕200年記念祭」の日本代表としてウィーンへ。本場の演奏を聴き、涙が止まらなくなった。翌年、国立のベルリン音楽演劇大(現・ベルリン芸術大)に留学。「最初の1年は死に物狂い。弾いて弾いて弾きまくりました」。自分の演奏に対する違和感が分かるまで帰らない覚悟だった。

(上)ピアノの奥深さについて、笑顔で話す室井さん(下)1960年ごろ、チェコの首都プラハで公演

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 音が変わると、人間の心理も動く。なぜここで作曲家がこの音を選んだのか。考え続け、音楽にも文法があると気づいた。「音楽は音で書いた詩であり、小説であり、戯曲」

 子どもの曲と思っていたベートーベンの「エリーゼのために」。ある高齢のピアニストが奏でると、半音の微妙さが美しく、感情の機微を伝えていた。

 心に喜びや悲しみ、いろんな経験が入った「ずだ袋」があるという。袋の中で音は発酵し、響きが深くなる。

 何でも一生懸命やれば到達できるとは思わないが、一生懸命にならないと、先に進めない。「途中下車はダメ」と、やんわり。

 楽譜の中に「何か」を探す毎日。「新しい発見があると、天に昇らんばかりのうれしさ。それが私を音楽に夢中にさせているの」

 むろい・まやこ 1921年東京生まれ、60年にヨーロッパデビュー、64年にドイツで出版された「世界150人のピアニスト」に選ばれる。82年に帰国、95年から始めた音楽の背景を解説するトーク&コンサートも好評。今年は12月2日に群馬県の桐生市市民文化会館、同15日に東京文化会館(台東区)で予定。問い合わせはゼール音楽事務所=電03(3995)5221=へ。

 教え子も多く、オーケストラ・アンサンブル金沢の音楽監督の井上道義氏も幼少時にピアノを習っていた。

 ※次回は18日付Love&Sex。男女の脳の違いなどから、恋のヒントを探ります。

 

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