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山伏の生き方 若者共感 震災後増える修行体験者

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 山伏(やまぶし)と聞いて思い浮かぶのは、ほら貝を吹いて山を歩き、滝に打たれる野太い男性や、歌舞伎の勧進帳に出てくる弁慶…。こわそうだし、正直よく分からない。最近、自然と向き合う文化にひかれ、修行を体験する若者が増えているという。なぜなのか知りたくて、30代で山伏になった男性に会いに出掛けた。

 待ち合わせた都内のカフェにやってきたのは、Tシャツにワークパンツ姿の「普通の男性」。

 千葉市出身のイラストレーター、坂本大三郎さん(37)は30歳の時に山形県の出羽三山(羽黒山、月山、湯殿山)で修行を初めて体験。その3年後、羽黒山伏の名を授かる「秋の峰入り」に参加した。今は山形と関東に生活拠点を置く。

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母胎で生まれ変わる

 山伏にとって山は母親の胎内。そこから新たな命に生まれ変わるため修行する。「死者」を象徴する白装束を着て、山を昼夜歩き、冷たい川に入り、滝に打たれて心身を清める。食事はわずかな白米とたくあん。閉めきった部屋でトウガラシやドクダミなどを燃やした煙にいぶされる「南蛮いぶし」も。そんな“苦行”に坂本さんは友人の体験を聞いて「面白そう」と足を踏み入れた。

 体験当時、東京・南麻布に住み、週末は朝まで飲む昼夜逆転の生活だった坂本さん。修行中、疲れ切って食べたおにぎりのおいしさに驚いた。湯殿山を歩いている時、真っ赤な岩がボコッと眼前に現れ、触れると脈打つような生命力を感じた。

 食べ物や自然に対し、素直に驚き、感動する。心身の変化が不思議で、山伏について調べだし、歌舞伎や能など芸能・芸術と深く関わることを知った。

 幼いころから絵を描くのが好きだったが「なぜ描くのか」「ものづくりはどんな意味があるのか」と分からなかった。疑問を解くヒントが見つかる気がして、山伏の世界にのめり込んでいった。

 山で生きる技術として狩猟免許も網、わなを取得。銃を取らなかったのは、人間が強くなり過ぎて自然と向き合うバランスが崩れると思ったから。山伏の文化に通底する思想は「生命の循環」と坂本さんは考える。山に入ればクマに襲われ、遭難の危険もあり、生と死が同伴している感じという。

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「循環」の思想 根底に

 山形での生活拠点は月山のふもと、大蔵村の肘折(ひじおり)温泉。肘を折った老僧が温泉につかると傷が治ったとの伝説が残る湯治場だが、山伏の古称「日知(ひじ)り」に由来するとの説もある。冬場、狩猟で山ごもり中に体を温めるため山伏たちが訪れ、発展したとか。日知りは日(太陽)の運行など自然の知識から豊作などの未来を予測したため、そう呼ばれた。

 そうした古来の自然観を受け継ぐ山伏の文化にひかれる若者が増えていると、坂本さんは実感している。自身の体験をつづった「山伏と僕」(リトルモア)を2012年に出版後、イベントで話す機会も増加。特に東日本大震災以降、「自然との付き合い方を模索している人が多くなった」とみている。

 「山伏の文化を立脚点に現代の世界を見ると、面白い気づきがある」。自然の中で生きる知恵や技術に関心を持つ現代人が少しでも増えたらと願っている。

山岳信仰と宗教融合

 山伏の文化は自然を崇拝する山岳信仰に仏教や神道などが融合し、中世に成立したとされる。民衆の救済や超能力の獲得を目指して厳しい修行「修験道(しゅげんどう)」を積んだ者が山伏。明治政府が神仏分離や廃仏毀釈(きしゃく)の命令を出した影響で多くの山伏は職を失ったが、現在も東北や紀伊半島、四国など各地の霊峰で活動している。北陸では白山、立山が修行の場。

山伏・坂本さんの暮らし

 坂本さんは昨秋から肘折温泉の宿に居候し、今年6月に家も借りた。生活の中心となった山形では朝早く起き、山を巡って山伏が歩いた古道や聖地などを探し、猟師らから狩猟の技術などを学ぶ。注文があればイラストを描き、原稿を書く。8月には山で生きる技術を伝える本を出版する。関東には山伏を紹介するイベントなどがある際に滞在している。

百聞は一見にしかず 挑戦を

 山伏の修行は「他言無用」が決まり。百聞は一見にしかず、ということか。坂本さんが最初に体験したのは、鶴岡市で宿坊を営む羽黒山伏の星野尚文さんが指導する2泊3日の大聖坊山伏修行だ。

 手伝う会社役員の加藤丈晴さん(47)も2010年秋に参加。もともと地域の精神性や文化に根差した持続可能な社会づくりに関心が強かったが、修行から「頭だけで考える限界を知った」。翌春に大手広告代理店を辞めて鶴岡市へ移住。体で気づき、学ぶ生き方を実践している。

 今年の修行は7月9〜11、19〜21日、9月14〜16日、問い合わせは加藤さん=電090(2981)7251=へ。

 鶴岡市観光連盟は9月6〜8日に体験塾を開く。ここ20年、参加者は30〜40人で推移していたが、震災後、「自分を見つめたい」などの理由で希望者が増え、2012年から定員を50人に。問い合わせは同連盟=電0235(62)4727=へ。申し込みは8月23日まで、定員に達し次第締め切る。

 肘折温泉では8月10、11日に坂本さんらのトークイベントや山歩きが企画されている。

 担当・押川恵理子 次回は22日付Love&Sex。合コンに役立つアプリを紹介します。

 

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