トップ > 北陸中日新聞から > 北陸発 > 記事

ここから本文

北陸発

泊まる 秋声の心と 金沢で今月開業 2棟がゲストハウスに

(上)今月中にも営業が始まるゲストハウス「Azuki旅音」。男性は施設を管理する林俊伍さん=金沢市森山で(下)近くオープンする「まちの踊り場」=金沢市瓢箪町で(いずれも篠原麻希撮影)

写真

 金沢が生んだ文豪、徳田秋声ゆかりの古民家二棟がゲストハウスに生まれ変わり、今月中にもオープンする。二棟は秋声の異母姉が暮らした町家と異母兄の住んだ武家屋敷。ともに川端康成が「神品」と、至高の作品として激賞した短編小説「町の踊り場」に登場する。(押川恵理子)

価値見直され 短編舞台 再生

 町家は金沢市森山にあり、九歳上の異母姉、太田きんが嫁ぎ、家族と生活していた。延焼を防ぐ「うだつ」を備え、一九〇二(明治三十五)年の築。きんの危篤を知った秋声が東京から駆けつけたが、到着前にきんは七十年の生涯を終え、ここで葬儀が営まれた。「町の踊り場」にその様子が描かれてある。

 七〇(昭和四十五)年から和菓子店「たなべ」が使っていたが、二〇一七年五月末、店主の田辺元弘さん(78)が高齢を理由に閉店し、取り壊しの危機に。「秋声のファンも店に来てくれた。残したいと思ったが、更地にして駐車場にすることも話していた」。妻の康子さん(77)は振り返る。

 存続に奔走したのが不動産業者「モンスーン企画」(金沢市)の安藤紫(ゆかり)さん(47)だ。一七年末、東京の不動産投資家、鈴木学さん(50)の購入につなげた。古い建物に手を入れて長く住む価値観に惹(ひ)かれた鈴木さんは「柱が太く立派。暮らすような感じで楽しんでもらえたら」。「Azuki旅音(たびね)」として営業を始める。二つに仕切られ、六人、四人までそれぞれ宿泊でき、犬も一緒に泊まれる。

 管理・運営を担う企業「こみんぐる」(金沢市)取締役の林俊伍さん(32)は「秋声の本や資料も置く。地元の人にも利用してほしい」と呼び掛ける。

晩年の徳田秋声

写真

 武家屋敷は金沢市瓢箪町にあり、江戸後期に建てられたとみられ、十二歳上の異母兄、正田順太郎が住んだ。きんの葬儀後、秋声が泊まった。「年々苔(こけ)のついてくる庭の一木一石、飛石(とびいし)の蔭(かげ)の草にも、懐かしい記憶があった」と「町の踊り場」につづられている。

 一組限定の宿「まちの踊り場」に衣替えする。所有する「セカンドセンス」(金沢市)社長の佐原明日子さん(38)=東京都=は「ここを知らない人が金沢にもいる。手入れされた庭も見に来てほしい」と話す。

 徳田秋声記念館(金沢市)の藪田由梨学芸員は「秋声ゆかりの建物はこの二棟のみで、大変貴重。皆さんが使える場として伝わっていくことはうれしい」と歓迎している。

写真

宿の詳細

 Azuki旅音 森山1の5の23、電076(205)8092。1泊1人4000円から。

 まちの踊り場 瓢箪町7の6、電076(255)3736。最大8人まで泊まれる。1泊1人7800円から。

 町の踊り場 日本の自然主義文学を代表する徳田秋声(1871〜1943年)が33年に発表し、一時的なスランプを脱して文壇に復帰した。姉の危篤を知り、東京から帰郷したが、葬儀前日に料亭に出掛け、葬儀の夜に金沢唯一のダンスホールで踊ったことをつづった私小説。世間体や固定観念にとらわれない主人公の姿を、川端康成は「自ら悟りのありがたさが感じられる」と評価した。

 

この記事を印刷する

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山
地方選挙

Search | 検索