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穏やかな時間 彩るアート 作者、地元、観光客 深まる交流

「奥能登曼荼羅」に囲まれて、芸術祭について話す金沢美術工芸大研究員の中島大河さん(左)と落合誓子さん=石川県珠洲市飯田町で(木戸佑撮影)

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 石川県珠洲市で開かれている奥能登国際芸術祭を通じて、新たな交流が生まれている。時間がゆったりと流れる「さいはての地」のにぎわい。アート作品を鑑賞しながら、作者や地域の人、観光客の話に耳を傾けた。(督あかり)

 まず、飯田町へ。商店が並ぶ通りに、金沢美術工芸大アートプロジェクトチーム「スズプロ」の作品がある。明治時代の蔵の内壁に広がる奥能登曼荼羅(まんだら)に圧倒された。学生が一年半かけて地元で話を聞き、キリコ祭りやヤブツバキなどの花、渡り鳥、人々を描いて珠洲の絵図に仕上げた。波や海藻の模様が彫られた床に立つと、海上にいる気分。

 「馬緤(まつなぎ)はどこ」。市内の馬緤町に住む中平よう子さん(73)が曼荼羅を見て尋ねる。金沢美術工芸大研究員の中島大河さん(23)は「ここです。ここに源義経が馬に海藻を与える絵を描きました」。中平さんは「伝説ね。その海藻は義馬草(ぎばさ)」と笑い、「いつもはお盆を過ぎると静かだけど、県外ナンバーの車がたくさん来てうれしいね」と話した。

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 会場近くに住み、学生と親しくなった落合誓子さん(70)は「学生は頼もしい。作品を見て、私たちの意識の奥底にある気持ちこそが能登の再生につながると実感した」としみじみ。

 続いて、鴻池朋子さんの物語るテーブルランナー珠洲編を鑑賞した。手芸好きの珠洲の二十七人が思い出を刺繍(ししゅう)で表現している。板垣政子さん(80)の思い出は、滋賀県に住む次女が病床から、月を見ながらかけてきた電話。「お月さんがとても好きでね。昨年、五十三歳で亡くなりました。悲しかったですね」。手芸店「ホビーつぼの」を夫婦で営む板垣さんの長女坪野節子さん(57)も「思い出を形に残せたらと、一針ずつ思いを込めた。妹がつないでくれたみたい」。

 次は、EAT&ART TAROさんのさいはての「キャバレー準備中」。かつてのフェリーターミナルの待合所で、飲食も提供する。「かつて、フェリーに乗った人は懐かしそう。平日でも百人以上が来場してびっくり。芸術祭が終わっても交流の場を続けてもらえたら」とTAROさん。

 昼すぎ、飯田町から車で十分ほどの宝立町へ。石川直樹さんの混浴宇宙宝湯は、源泉掛け流しの銭湯「宝湯」二階に、宴会の写真と御膳などが並ぶアート作品。銭湯を経営する橋元宗太郎さん(34)は「二階は芝居小屋や旅館として使われていた。生き返ったみたい。風呂に入るお客さんもいる。珠洲に移住したいと言うボランティアや起業したいと語る学生もいてすごいんです」と喜ぶ。「また来て」と、長男歩武(あゆむ)君(5つ)と見送ってくれた。

 最後に、中国人の劉建華(リュウジャンファ)さんが見附島を背景に景徳鎮の陶器と珠洲焼を並べた海岸へ。見入る米国人観光客のソーモッズガード・ゲイロードさん(74)とダイアンさん(67)夫妻は「人の心がとても穏やか。誰をも受け入れるオープンな心がすてき」。夕日に照らされた穏やかな波が、珠洲の人の心に重なって見えた。

 

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