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【慈しむ】ジビエ専門解体施設 丁寧に、命つなぐ

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 白山麓の山間を走る県道は、日中でも日陰が多くて少し薄暗い。ジビエ専門の食肉解体処理施設「ハンターベースジャパン」は、石川県白山市河内町の白山セイモアスキー場手前の道路沿いにある。長田泉さん(53)が一人で運営する。

 扱うのはイノシシやシカ、クマなど。近くの山で自ら捕獲したり、知人の猟師らが仕留めたりした動物を冷蔵庫や冷凍庫、真空パック詰めの機械を備えた木造平屋の施設で手作業で解体している。昨年は約二百六十頭を処理し、うち九割はイノシシだった。ジビエ専門の食肉解体処理施設は現在、県内ではこのほか金沢、羽咋市などに四カ所あるだけだ。

新参者 師匠のため

 三十代半ばから飲食店を併設したレザークラフト教室を金沢市内で始め、事業自体は順調だった。生活は安定したが、次第に従業員や金の管理が仕事のメインに。「もともと人間関係が苦手な性分で、苦痛になり逃げ出したかった。食べるものがあれば、生きていけるという単純な発想だった」。妻の反対を押し切り、河内町に移り住んだのは二〇一一年冬だった。

 翌年に狩猟免許を取得。一年間は猟のルールやマナーも知らないまま自己流で山中の獲物を追ったが、現実は予想以上に厳しかった。見かねた地元の人の勧めで、ベテラン猟師の狩猟に同行させてもらったのが転機だった。山の形状や獲物の現状を熟知し、無線を使った万全の連絡体制で臨む猟師たち。常に仲間や近隣の人たちに危険が及ばないよう気を配っていた。「安全性なんて考えたことがなかった。素人だと思い知らされた」と振り返る。

 以降、猟に同行させてもらうようになり、今はこの先輩猟師を「人生初の師匠」と言い切る。「もっと学びたい。時間や手間のかかる獲物の解体を自分が担当すれば、先輩たちの猟の時間がもっと増えるし、喜んでくれるはず」。獣害が地域の社会問題になる中、食肉解体処理施設を開設したのはこんな動機だった。

クマに教わったこと

 インターネットで資金を募るクラウドファンディングで広く協力を呼び掛けたところ、百六十三人の支援者から計二百七万円の資金協力を得た。行政からの補助金もあり、資金面の問題をクリア。築二十年ほどの旧別荘を改装し、施設は一六年冬にオープンした。今年九月からは隣のログハウスで、金、土、日曜限定のジビエレストランも再開している。

 銃口を向けたクマと目が合った時のことを忘れない。「食べてもいいよ。だけどちゃんと体に取り込んで最後は自然に返してくれよ」。そう語りかけているように感じた。「弱肉強食の自然界では食う、食われるの悲壮感はなく、獲物の命が自分の命をつないでいる。だからこそ丁寧にさばいてやりたい」 (文・鴨宮隆史、写真・西浦幸秀)

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鴨宮記者もやってみました!

 市街地に出没したというニュースを見るのも珍しくなくなった来年のえとのイノシシ。農作物を踏み荒らす「有害獣」として駆除されるのもやむをえないが、それならせめてもっと「有効活用」してあげたい。そんな思いを感じながら、イノシシの解体作業を体験させてもらった。

 解体したのは、体長約1メートル弱、重さ約20キロの今春生まれた雌。9月半ばにわなで捕獲し、内臓や血抜きをして冷凍保存していた。使用するのは刃渡り20センチほどのナイフ1本だけ。長田さんはこの程度の大きさなら2時間ほど、大きいイノシシでも5時間ほどで解体処理するという。

 イノシシの足に切り込みを入れ、左手で皮を引っ張りながら肉の間の薄い筋をナイフでそぐように切って少しずつ剥いでいく。「左手に力を入れて。ナイフは軽く動かすだけで大丈夫」。見本を見せてもらった後、挑戦するが力加減がつかめず、皮に肉が残ってしまったところも。

 うまく筋をカットできると、するっとむける。次第に作業に熱中し、後ろ足1本分の皮を剥いだところで時間切れ。「これ以上やると肉が傷んでしまう」と長田さん。「実験台」になってくれたイノシシに少しすまない思いがした。

 石川県内では2017年度、9174頭のイノシシが捕獲された。ただ食肉として利用されたのはこのうち12%。ほとんどは焼却、埋設処理されている。

 

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