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【楽しむ】手作り パン喫茶 おいしく安全に

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 手作りのパンやケーキが味わえる店「珈琲(コーヒー)ぎいさ」(石川県かほく市秋浜)を切り盛りする松田さと美さん(56)。三十年近く看護師として公立病院で働いた。四年前に、生きる糧だった看護職をなげうって店を建てた。五十代という人生の節目。何が後押ししたのか。それが知りたくて「ぎいさ」の扉を開けた。

 黒く塗られた柱や梁(はり)がすっと通った、吹き抜けの造り。色絵の皿が飾られ、コーヒーの香りが漂う。松田さんが夢を実現させた店だ。

看護師からの転身

 眼科、耳鼻科、整形外科、消化器外科、精神科の第一線に立ち続けた。一方で、家族に安全でおいしいものを食べさせたいと、三十歳ごろからパンやケーキの教室に通った。収穫後に使われる農薬の影響がクローズアップされ、食材の安全に関心が集まっていた。

 百貨店の催す教室で、自分が焼いたパンを手にすると「あー、私も作れるんや」。喜びが心に広がった。「もっといろんなものも作ってみたい」と全国展開する教室で学び始め、基礎、研究、師範のコースを一つずつ上がった。

 病院の夜勤前にパンやケーキを作って持っていくと、同僚らが「おいしい」「こんなに上手ならパン屋さんやケーキ屋さんをやったらいいのに」と言ってくれた。職場の笑顔が忘れられなくて、焼きたてを持ち込むのが習慣に。時折、こう思うこともあった。「定年になったら、やってみようかな…」

51歳 後悔するより

 もちろん職場では医師の指示を守り、患者さんのために尽くしてきた。「私はナースのままで終わるんや」と思っていたが、半面、「燃え尽きるまで仕事をしていないけれど、何か疲れてきたなあ」とも感じていた。父親が亡くなり、実家の跡地があった。退職金という資金、夫(62)や長男(29)の理解も。

 何より、心の中にまかれた種が芽吹き、つぼみが花開こうとしているのに気づいた。決断したのは五十一歳。「あの時、しとけばよかったと後で後悔するより、やってだめなら、やめればいい」

 朝五時。「時間との闘い」が始まる。パンの生地をこね、発酵させる。同時に数種類のケーキを作り、合間に洗い物をする。「もうこんな時間、と思う連続。毎日、てんぱりまくり」と笑う。「世間でボーナスが支給される時期が来ると、あのまま看護師の仕事を続けていたらなあと思う。けれども、体力的に続かなかったかな。そう自分にいいきかせている」とも。

 食材は国産小麦をはじめ、できるだけ国産、地元の物を使う。安全でおいしいものを作る思いは、家族のために焼き始めたころと変わらない。「また買いに来たよ」「おいしかったよ」というお客さんの声を励みに、きょうも調理台に向かう。 (澤井秀和)

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澤井記者もやってみました!

 「ぎいさ」が休みの日に松田さんにケーキ作りの特別レッスンを受けた。酷暑の夏に数回。覚えが悪く、おぼつかないのは、暑さのせいか。

 材料の重さを量る。薄力粉を振る。卵を割り、程よく泡立てる。できたクリームを均一に美しく塗る…。小さな作業の連続だが、求められるのは正確さだ。この作業がなぜ必要で、何をもたらすのか。そんなことを考えている間もなく、松田さんに言われるままに手を動かし続けた。

 すると、牛乳、薄力粉、バター、砂糖からケーキというものが形になっていった。新しい価値や文化を生みだすとは、こういうことか。大げさかもしれないが、そんな不思議さ、面白みがあった。松田さんが看護師として働きながら、教室に通った理由が少しは分かった気がした。

 松田さんが新しい道を切り開けたのは折々に学び続け、ファンをつくり、それらを「人生のスパイス」にしたから。大きな目標ではなく、小さな喜びの連続が原動力になったのではないだろうか。

 ぎいさの営業時間は午前10時〜午後6時。月、火曜は定休日。店の名は実家の屋号に由来する。この地で家を受け継ぐという松田さんの静かな決意も伝わってくる。問い合わせは、松田さん=電090(8969)3863=へ。

 

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