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【楽しむ】観察手帳 つづる日常 豊かな老後

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 あなたいくつ? 誰しも年は取りたくないものだよね。昔はこんなこと簡単にできたのになぁ。ほら、眼鏡をかけてちょびひげを生やしたあの役者、よく人を笑わせていたあの…、名前は…。思い当たる人もいるのではないだろうか。年を取ると言葉や動作に不都合なことがでて嘆くものだ。

 でもこんなことは当たり前と老いを受け入れ、自分や周囲の同輩を観察したり理解したりすることで、老いを楽しんでいる人がいる。ドイツ文学者・エッセイストの池内紀(おさむ)さん(77)=東京都三鷹市=は、七十歳からこれらを実践し、日々の生活の中で気付いたことをメモに残し、それをまとめて昨年「すごいトシヨリBOOK」(毎日新聞出版)という本を出版した。

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年取った自分知る

 「人間は年を取ると見知らぬ他人になってくる。好みは変わり、能力は落ち、体形は変化する。年を取った今の自分を知らなければ錯覚する。昔のままの幻想を持ってはいけない」

 七十歳になったとき、残りの人生をあと七年と見定め、余生を楽しく暮らそうと考えた。文筆活動ででた紙切れを持ち歩き、老化現象と思われる他人の癖や習性、いわゆる年寄りの生態をメモすることにした。メモは何枚かずつまとめて短冊のようにして書斎につるし、手帳に書き写して観察手帳としてまとめた。

 「友人は子どものころ、花が好きだったと言っていたが、そんなことはなかった」「仲間内の会話やスピーチで同じことを何度も繰り返して話す」「いろいろ年寄りの団体があるが、会社人間の名残で群れてしまう。独立できずにはしゃいでいるようだ」

 手帳を精査すると、豊かな老後を送るためのヒントが見えてくる。例えば、群れに入らず自立する。周りに人がいると格好をつけたがったりうそをついてしまったりすることがあるから。次に情報やテレビからの自立。池内さんは、家にテレビは置いていないし携帯電話、インターネットも使っていない。「楽しめる情報はわずか。多くの情報に振り回される必要はない。なくても退屈はしないし、妻との会話も増えますよ」

絵や写真も添えて

 観察手帳を作ってみようと思う人にひと言。ただ文字を書くだけではなくイラストや写真を貼ったり、絵を描き添えたり手帳に名前をつけたりして「楽しく感じるものにしなければ続きませんよ」と助言する。

 池内さんは十一月で七十八歳を迎える。当初想定した「人生七十七年」は超えてしまう。そこで余生は「三年延長」と捉え、原稿を書き続けることと旅行を楽しみたいという。今手掛けているのは、安藤広重の絵を道案内に東海道五十三次の宿場を巡り、歴史や風土、食などを考察した書籍「五十三次二人(ににん)旅」。秋ごろに出版を予定している。 (前田清市)

前田記者も書き留めました!

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 取材ノートに取材内容を書き込むことは仕事として当然だったが、手帳や日記帳に日々の事象を書くことはほとんどなかった。まして人の動向を観察してメモに残すなんて意味があるのだろうか。しかし池内さんを取材し、興味が湧いた。六十代に少し入った記者もしばらくの間、意識して周囲に目を配ってみた。

 久しぶりに会った友人との会話。ある場所を説明するのに目標となる建物を示すが、いずれも今はなくなっている。記憶は昔のままだ。ゴルフ談議。「昔はあのバンカーなんか簡単に越えたのになあ」。年なのを理解しているはずだが、つい口に出てしまう。

 人と打ち合わせをしていると、突然、横から口を挟んでくる人がいる。本人は話が聞こえ、助言しているつもりかもしれないが、何だか違和感が。

 観察していて気付いたのは、人を見ている自分がいるということ。他人を意識することで自分の存在が再認識できる。観察でいろいろなことが見えてくるのは楽しい。それらを参考に自分も前向きに生きねばと思えてきた。

 

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