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【楽しむ】おもちゃドクター 無償の愛情

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 石川県羽咋市に月1回、おもちゃ病院が開く。伊藤聡さん(66)の姿がある。ドライバーにニッパー、カッターナイフ、ピンセット、テスター、塗料…。傍らで口を開ける道具箱は、幼い子や父母からの注文にこたえる魔法使いのポケットのようだ。

大事に預かるよ

 病院といっても泣く子はいない。持ち込まれるおもちゃを預かって直す。3月13日。羽咋市市民活動支援センター一角の「はくいおもちゃ病院」に、仮面ライダーの変身ベルトが持ち込まれた。4月から保育園年長の木下來久(らいく)君(5)が母亜季さん(36)と訪れた。

 「どこが壊れたのかな」。伊藤さんが尋ねる。音が鳴らなくなったのだという。富山県魚津市に住む大好きないとこのお兄ちゃんからもらった大切なベルト。隣で、病院長の松本岩雄さん(49)が声をかけた。「大事に預かるからね。心配せんといてね」と。

 ベルトを締めて家の中を駆け回る。「へんーしんっ」。かつての自分、わが子の姿を重ねて、「お下がりのおもちゃだから余計にね」。直してあげたいと早速、2人で原因を探し始めた。

 伊藤さんは、東京都大田区の生まれ。京浜急行「六郷土手」駅の近く。赤色の車体を見て、あこがれて、小学6年の時から鉄道の模型作りを楽しんだ。「ものづくりが趣味」の原点がここにある。自宅の14畳の部屋には、自作の線路に、実物の150分の1の七尾線の旧列車が走る。

自作部品も用意

 総合電子部品会社の元社員。京都や滋賀、羽咋など転勤は8回を数えた。羽咋に家を建て、定年後の2016年に戻った。松本さんの活動を知って仲間に加わった。売っていない修理用の部品は自分で作る。自宅には旋盤まである。遠方にいる孫からは、「おじいちゃん直して」と、「きかんしゃトーマス」の列車が届く。

 おもちゃ病院の活動は、七尾市の親子ふれあいランド「あい・あい・あい」に学ぶことから始まった。「愛情」「出会い」「相談」から取った三つの「あい」を重ねた場所に「おもちゃ図書館」があり、おもちゃの貸し出しをしている。おもちゃが壊れたら、その場で伊藤さんと松本さんが直す。2人の手元を目の前でジッと見ている子がいる。

 預かるのはおもちゃだけではない。ある時、高齢の女性が、「おしゃべりをする人形が話さなくなった」と、いとしそうに持ち込んだこともあった。物を直すだけでなく、思い出も再生する。

 あい・あい・あいを運営するNPO法人ぽっかぽか理事長の滝恵美子さん(69)は、そんな毎月の光景を「おもしろいですよ」と語り、2人に感謝する。

笑顔が原動力に

 おもちゃ病院の修理代は原則無料。部品代だけもらう。「直してお渡しする時がうれしい」。受ける感謝と達成感。帰ってくる笑顔が活動の原動力になっている。

 松本さんは「おもちゃは、誰かに伝えたい、下の子にも遊んでほしいと受け継がれる。和やかにコミュニケーションができる。修理はその原点」という。「形のあるものに触れてほしい」と願う。鉄道模型のことを話す伊藤さん。おもちゃへの愛着を語る松本さん。2人の顔は少年時代に戻っている。

 おもちゃ病院は全国にある。石川県内では七尾市と羽咋市、金沢市に。富山県では富山市、福井県ではあわら市と鯖江市に。

 伊藤さんは「たくさんいればもっと活動の幅が広がる」と仲間を求めている。6人きょうだいの末っ子。鉄道模型を愛した少年の心は、還暦を過ぎた今も変わらない。ものづくりへの愛着が、多くの人の笑顔を生む。 (小塚泉)

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小塚記者もやってみました!

 伊藤さんと松本さんの傍らで、記者=写真(左)=も修理の体験をした。といっても、ニッパーで電線の被覆を切った程度。手伝いのうちにも入らない。

 機械や工具類の扱いはからきしダメ。自動車や自転車、電化製品の修理をする人の姿を見るたび、「かっこいいなあ」と羨望(せんぼう)のまなざしを送ってきた。

 まずは、修理に必要な道具を一つずつそろえてみよう。松本さんが働いている羽咋市内のおもちゃ売り場に見に行った。

 はやる気持ちを見透かすように松本さんが助言をくれた。「長い目で、ゆっくりやってくれたらいいですよ」と。修理はできなくても、持ち込まれるおもちゃの思い出話に耳を傾けることはできるかもしれない。

 日本おもちゃ病院協会のおもちゃドクター養成講座の受講を考えている。いつか、おもちゃドクター小塚の誕生を報告できる日がくることを。

 

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