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挑戦 北陸財界ものがたり

YKK(6) 経営理念「善の巡環」

1974年、アメリカ・メーコン工場竣工式でのカーター氏(右)と吉田忠雄氏=YKK提供

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 一九九三年七月、米国の第三十九代大統領だったジミー・カーターは吉田忠雄の告別式に参列し「あなたは小さな巨人だった」とたたえた。YKKが三回忌にまとめた追想録でも「吉田の経営理念は哲学」と賞賛した。カーターが哲学と言った思想、それが「善の巡環」だった。

 カーターはYKKが米国・ジョージア州メーコン市に工場を建てた時の州知事。吉田の人柄と経営理念にほれ込み、家族ぐるみのつきあいをする。一九七七(昭和五十二)年一月の大統領就任式にも吉田夫妻を招いた。

 富山県魚津に生まれた吉田は小学生のころ、先生に薦められて偉人の伝記を次々に読んだ。米国の鉄鋼王カーネギーの伝記の中にある「他人の利益を図らずして自らの繁栄はない」という考え方を吉田は信念にする。

 善の巡環は、吉田が自らが事業理念をひと言で表すためつくった言葉。善の種をまいて善を尽くしていけば必ず報われ限りなく善は巡る、と事業の指針にした。昭和三十年代前半に生まれたとされる。

 元YKK副会長の村井正義(82)は吉田の生誕百年を記念して出版した『吉田忠雄と「善の巡環」を語る』で、副社長だった東山重義(故人)の話を披露している。みんなで火鉢にあたりながら聞いていたラジオから経済の循環の話が出てきた。吉田は「おお、そういう言葉があるのだったらわしのやっている善も循環して高まっていく。ただ回る循環でなく上昇していく。これがいい」と言ったという。

 善の巡環の意味を表す考え方のひとつが成果三分配だ。吉田は「百二十円のファスナーが六十円でできたとする。得した六十円をお客さま、関連産業、YKKで三等分すればみなさんが喜び、またYKKの製品を使ってもらえて良いことが巡環する。YKKの分はさらに良い製品づくりに使う」と説いた。

 元副会長の西崎誠次郎(83)もオランダに駐在していた時、忘れられない思い出がある。イタリアで合弁契約を解消することになり、相手側に出資金の十倍を支払うことにした。しかし、吉田の指示は「その二倍を払え」だった。

 西崎の金額では相手に不満が残る。残ればYKKは悪口を言われる。今後もイタリアで事業を続けるなら「一点の曇りなき信用」こそ大事だという。海外では現地に溶け込んで仕事をするよう指導した吉田。西崎はあらためて吉田に心酔する。髪形も吉田と同じ右分けに変えた。

  (敬称略)

 

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