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北陸文化

【雨乃日珈琲店だより ソウル・弘大の街角から】 (13)映像のない世界

当店で人気のケーキ「抹茶ガトーショコラ」

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感じ取る力心洗われる

 お客さまがケーキを残すと、つくった者としては非常にがっかりするものだ。

 お口に合わなかったのなら仕方がないが、そうでない場合も多いように思われる。会計時に「本当においしかったです!」と絶賛しながら残して帰る人も少なからずいるし、また当店のケーキはおひとり様サイズなので、複数人でシェアした場合(分かち合いを良しとする韓国では、ひとつのケーキを皆で食べることが多々ある)、ほんの少ししか食べられないからだ。客人のためにたくさん料理を並べる韓国では、日本ほど「残さず食べなさい」とは言われないのかもしれないが、それでもやはり、もやもやせざるを得ない。

「無丘」(甲骨文字)2017年国と国、人と人には丘や境界はないという意味。移住して間もなく、韓国の方から教えてもらった言葉

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 ところが先のクリスマスの日、素敵(すてき)なカップルが当店を訪れてくれ、心が洗われた。ふたりは目が不自由で、支えあうように来店。ドリンクとケーキをそれぞれ注文し、時間をかけて、ふき取ったかのように残さず食べてくれたのだ。目が見えないのにもかかわらず、お皿の上で何度もフォークを行き来させ、ケーキの切れ端を全てすくい取ろうとする姿に、心から有り難い気持ちになった。

 しばらくして彼が話しかけた。「ツイッターで見たのですが、(販売している)白磁の器に触ってみてもいいですか」と言う。イヤホンをしてスマホを触っていたので、ツイッターのテキストを読み上げるアプリがあるのだろう。陳列棚に並べられた器をじっくり触った後、それが気に入ったのか、ひとつ購入してくれた。私がツイッターやインスタに投稿したその器の写真には、たくさんの「いいね」がついたが、彼は見た目ではない魅力をその器に感じ取り、購入してくれたのだ。それはとてもうれしいことだった。

 映像のない世界で奮闘する彼らにとって、私たちの店は、ケーキとコーヒーの味と香りは、空間を満たす音や温度は、一体どのように感じたのだろう。彼らの世界に関心を持つとともに、その鋭い感覚にも響く表現をしていきたいと心を新たにする年末だった。 (文・清水 博之、書・池多亜沙子/しみず・ひろゆき=ライター、いけだ・あさこ=金沢市出身、書家)

 

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