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北陸文化

【ジ・アーティスト】 漫画家 浦沢直樹さん 

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流れが命なんです。漫画は。  

それには一話まるごと展示するしかない

 「流れが命なんです。漫画は。それを分かってもらうには一話まるごと、一巻まるごと展示するしかない」。埼玉県立近代美術館での個展で、浦沢直樹さんは言った。目の前には壁を覆う膨大な直筆原稿。一枚を額縁に入れての一般的な展示とは違う。デビュー三十五年、三万五千ページを生んだ「描きまくる」漫画家の熱量があった。

 スポーツ、コメディー、歴史、ミステリーと描き出す世界は多彩。質、量ともに群を抜き、「現代の手塚治虫」との評もある。

 その手塚に衝撃を受け、描き始めたのは五歳。高校一年で手掛けた、芥川龍之介「羅生門」のSFは、手塚が能の演目を漫画化したことに触発された(本展で展示)。学生にして既に目線がファンとは違っていた。「ずっと漫画は自分でつくるものでした。今、たまたま原稿料を払ってくれるので漫画家をしてますが、子供のころからずっと描くのが普通なんです」。だから「漫画家になるつもりもなかった」。就職活動のついでにリクルートスーツで持ち込むと編集者の目に留まった。

 以来、希代のストーリーテラーは物語をどう生み出してきたのか。「映画の予告編のように、こんな画面が出てくるという、イメージがまず頭に浮かぶんです」

 たとえば、映画化もされたSFミステリー『20世紀少年』。初回の冒頭、不穏な先行きを暗示するように、成長した主人公カンナのシーンが挿入される。だが「描いている時はその子が誰か分からなかった」と驚くことを言う。構想段階で、あるシーンがひらめいたとして「なぜそうなるかは分からない」。天の啓示か、創作はそんなイメージをたぐり寄せる営みのようだ。

 「世界はどうすればわかり合えるのか」「人の命は平等なのか」…。近作で9・11後の世界や現代の中東を描いたように、作品からは社会へのメッセージも感じる。それを問うと「僕がやっているのは、『こんなことがあるんだけど、どう思う』って読者に問い掛けてるだけ。こうだって答えを示してるつもりはなくて」。抑圧された社会への反抗を歌ったボブ・ディラン。大きな影響を受けたというロックのカリスマの歌詞になぞらえ「答えは風に舞っているんです」と結んだ。

 文・森本智之

 うらさわ・なおき 1960年東京生まれ。58歳。83年『BETAベタ!!』でデビュー。『MASTERマスターキートン』『YAWARAヤワラ!』『MONSTERモンスター』『20世紀少年』『BILLYビリー BATバット』など。最新作『夢印(むじるし)』は仏ルーブル美術館との共同制作作品。

 ※国内外で文化を発信し、輝いている人を紹介します。=随時掲載

 

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