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北陸文化

【本】中村薺さん 第58回中日詩賞 「かりがね点のある風景」

中村薺さん

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見えないものを見えるように

 金沢市の中村薺(なづな)さん(86)の第三詩集「かりがね点のある風景」(私家版、亀鳴屋制作)が第五十八回中日詩賞に選ばれた。詩作について「見えないものを、見えるように書くこと」という中村さん。日常の言葉で風景や音楽などを切り取っているかのように見えながら、その詩句、詩行の背後からは、深く潜んでいる悲哀やおかしみ、怒りや喜びが、ふっと浮上してくるかのようだ。

 石川県小松市生まれ。高等女学校を卒業後、高校の図書館などで務めた。会社経営者だった夫が亡くなった時に最初の詩集「北京日乗」(一九九七年)、引き継いだ会社をたたんだ後に第二詩集「を」(二〇〇四年、金沢市民文学賞)を出した。今回は同人の詩誌「●(とう)」「北国帯」などに掲載した百編以上の中から選んだ二十七編を収める。

 かりがね点とは、漢文の返り字である「レ点」の古い言い方。古くは雁(かり)の飛ぶ姿に似た「▲」だった。「今の人にはわからないでしょうねえ」とつぶやく。

詩集「かりがね点のある風景」

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 「八月十五日」と題された詩は「昼過ぎの一輛電車は/稲田のなかを走った」と書き出される。「風もなく/車内も静かだった」。「父は機屋の坂上さんから/小声で囁かれて/目を丸くし口を尖らせていた」。「むかし騎兵だった」という父はどんな思いだったか。田舎を走る静かな電車の中、「まだ知らない人もいた/わたしは肩越しにそれを聞いた」。玉音放送で大げさに語られることの多い敗戦も、悲しみと安堵(あんど)が「ひとびとに明るい日の差す」車内で、にじみ出すように語られるのだ。

 詩について「難しいことを言う人がいるが、ほんとうに分かっているのかしらと思う」と笑い、自らの詩作を「分かりやすい言葉を、こんにゃくのように前後左右、裏表をひっくり返すように」と、ひょうひょうとして語る。跋文(ばつぶん)を寄せた詩人の田野倉康一さんは「中村さんの詩には中村さんをはじめとする個としての英雄たちの気息が、まさに間近に感じられるのだ」と評している。

 中日詩賞新人賞には同じく金沢市の中谷泰士さんの「旅を 人の視界へ」(私家版)が選ばれた。 (松岡等)

●は示すへんに壽

▲はパーレンを二つ横につなげたもの

 

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