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北陸文化

【バン記者・樋口薫の将棋見て歩き】(3) 「王位戦」を見てみよう

【左】豊島将之八段【右】菅井竜也王位

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 新聞の「番記者」とは、特定対象者を追う記者のことです。この欄は、政界の「番記者」ならぬ、盤上で戦う囲碁・将棋の世界「棋界」の「バン(盤)記者」がお届けします。

一戦に懸ける気迫

 本紙主催の第五十九期王位戦七番勝負の第一局が四、五日、愛知県豊田市のホテルフォレスタで開幕しました。初防衛を目指す菅井竜也(すがいたつや)王位(26)に挑むのは、今年好調を維持する豊島将之(とよしままさゆき)八段(28)。平成生まれの若手棋士同士による熱戦に密着、裏側をリポートします。

 対局当日の朝から、控室に衝撃が走りました。午前九時の開始時間の三十分以上前、菅井王位が無人の対局場に現れたのです。通常、両対局者が入室するのは十分前くらい。立会人の谷川浩司九段(56)をはじめ関係者一同も、急いで盤の側に並びます。

 タイトル戦は、棋士の和服姿も見どころの一つ。菅井王位は濃い縞(しま)柄の羽織に灰色のはかま姿。眉間に深いしわを寄せ、瞑想(めいそう)にふける姿にタイトル保持者としての風格を感じます。ややあって挑戦者の豊島八段が登場。漆黒の羽織がりりしく、思わず見とれてしまいました。

 五枚の歩を振って、表裏の枚数で先後を決める「振り駒」が行われました。菅井王位が先手となり、二日間の対局が開始。記者を含め関係者は対局場の近くの控室で進行を見守ります。「早めに盤の前に座って集中するのは、菅井王位のルーティンなんです」と解説してくれたのは、副立会人の糸谷哲郎(いとだにてつろう)八段(29)。竜王のタイトル獲得経験もあるトップ棋士で、大阪大大学院で哲学を学び、修士号を取った異色の経歴の持ち主です。

 「いつもと勝手が違うタイトル戦では、いかに盤面だけに集中できるかがポイント。両者とも、普段通りを心掛けているのだと思います」。なるほど。確かに豊島八段も、普段の対局で使っている耳栓を着用し、盤をにらんでいます。

 テンポよく進んでいた指し手が、午後になりピタッと止まりました。挑戦者が二時間以上の大長考。こういう時、棋士は何を考えているのでしょう。「ずっと将棋のことを考えているわけではなく、どこかで気を抜きます。おやつの時間は良い気分転換になります」。さすがは、無類のスイーツ好きで知られる糸谷八段の答えです。続いて王位も長考し、次の手を封じ(*参照)、一日目が終了。この四時間で進んだのはたった二手でした。

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 二日目午後、現地のホテル別室では大盤解説会が開かれました。平日、悪天候にもかかわらず、百八十人のファンが来場。糸谷八段が解説、女流棋界の第一人者の里見香奈女流四冠(26)が聞き手を務めるという豪華な顔ぶれです。二人の息の合った掛け合いに聞き入るうち局面が動き、優位に進めていた菅井王位が決め手を放ちました。投了の瞬間を見届けるため、あわてて控室に戻ります。

 豊島八段の全身から力が抜けたような感じが、モニター越しにも伝わってきました。水を口に含んでから「負けました」。終局は二日目の午後六時十七分。報道陣が一斉に入室し、インタビューが行われました。勝利した菅井王位の方が疲労困憊(こんぱい)していたのが印象的でした。

 最後に、糸谷八段に聞きました。棋士にとって、タイトルとはどんな意味を持つのか。「その棋戦で勝ち抜いて、最強だったという証し。棋士が何よりも一番目指しているところです」。確かに、両対局者からはこの一戦に懸ける気迫が伝わってきました。

 第二局は二十四、二十五日に神戸市であり、豊島八段が快勝、タイに持ち込んだ。

* 2日制の対局の中断時、手番の棋士が一晩考えると有利になってしまうため、相手が直前の一手を誰にも見られないように記し、封筒にしまっておく仕組み。通常は2通作成し、翌朝開封されるまで立会人と会場施設が管理する。写真は今回、菅井王位が記した封じ手。

 王位戦  将棋界の八大タイトルの一つ。1960年創設。予選、挑戦者決定リーグ、挑戦者決定戦を勝ち抜いた棋士と前期優勝者(王位)による7番勝負が7〜9月に行われる。2日制で持ち時間は各8時間。4勝した方が王位を獲得する。本紙のほか北海道、西日本、神戸、徳島のブロック各紙で主催し、全国を転戦する。

 

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