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北陸文化

【ジ・アーティスト】 デジタルと生物の仕組み溶け合う

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メディアアーティスト 落合陽一さん

 異名は「現代の魔法使い」。まるで魔法のような機械仕掛けのアート作品を作り続けている。その目に映る未来像に多くの人が魅せられ、取材は絶えない。

 六月には、執筆に三年を費やした新著『デジタルネイチャー 生態系を為(な)す汎神化(はんしんか)した計算機による侘(わび)と寂(さび)』(PLANETS)を刊行した。「デジタルとアナログがセットで一つの自然をなす『デジタルネイチャー』って考えをひたすら書いた本です」

 ふつう、情報をオン/オフで処理するデジタル方式は人工的、アナログ方式は自然的だと区別しがちだ。しかし「生物もデジタル計算機の一つ。神経系、遺伝子もデジタルで動いている」。例えば人間の目の網膜は、風景を視覚神経細胞によってデジタル的といえる情報に変え、視神経に伝える。

 VR(仮想現実)やAI(人工知能)といった最先端のデジタル技術は、そんな生物の仕組みにすんなり溶け込む。やがて機械と人間の区別のない新しい自然「デジタルネイチャー」を形作り、「情報の波の海」の中で人は肉体の限界から自由になれるというのだ。

代表作の一つ「Colloidal Display」(コロイド・ディスプレイ)。超音波技術で、像を結ぶはずのない透明なシャボンに蝶などの姿を映す。

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 そんなSFのような未来を見据え、アーティストとして注目するのは意外にも日本古来の美意識だ。「侘寂の寂って『自然化』の然(さび)とも書く。自然化の末に人がいなくなって寂しい、みたいな感覚は、デジタルネイチャーにも通じる」

 東京・原宿のGYRE(ジャイル)で開催した個展「落合陽一、山紫水明∽事事無碍(じじむげ)∽計算機自然」は、会場を茶室に見立て、作品は「床の間に置けるサイズ感」にこだわった。「デジタルな自然が、古典美に接続できることを示したかった」と語る。

 新作「Silver(シルバー) Floats(フローツ)」は、鏡でできた歪(ゆが)んだ立体が磁気で浮上し、風景を写しながら回転する作品。日本庭園の「借景」の考えを取り入れた。「デジタルネイチャー」に向かう今、「西洋の文脈とは全く別の、テクノロジーや工業社会が発展した日本だからできるアートがあるはずなんですよ」。

 多忙ゆえ早朝にセッティングされた取材を終え、「寂」を感じるという秋葉原の電気街に、すっと消えていった。 (小佐野慧太)

◇おちあい・よういち 1987年、東京都生まれ。30歳。筑波大准教授、同大学長補佐。筑波大在学中の2009年から、新しい感覚を産むメディアを創造する「メディアアート」の活動を開始。15年、東京大大学院学際情報学府博士課程を修了、博士(学際情報学)。同年、「ピクシーダストテクノロジーズ」を起業。身体障害者、高齢者が快適に生活できるような発明も積極的に発表している。著書に『魔法の世紀』(PLANETS)、『日本再興戦略』(幻冬舎)など。父は国際ジャーナリストの落合信彦さん。東京都在住。

 ※国内外で文化を発信し、輝いている人を紹介します。=随時掲載

 

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