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北陸文化

【コミュニティシネマ 街中銀幕から】 光州事件を題材 「タクシー運転手 約束は海を越えて」

『タクシー運転手 約束は海を越えて』の1シーン。(C)2017 SHOWBOX AND THE LAMP.ALL RIGHTS RESERVED.

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 本や映画や舞台や漫画などのアート作品は、すごく面白い作品はそれだけで素晴らしいが、面白い上に考えさせる作品はさらに素晴らしい。面白いからこそ、そこで描かれている事象に興味を持つきっかけとなる。そのきっかけをどう広げるか、そこから先は観客自身にかかっている。

 五年ほど前、内容も知らず誘われるままに金沢21世紀美術館に観劇に行った時のことだ。まず観客は車に乗せられて移動した。当時、竪町商店街にあったスーパーの跡地の前に連れていかれると、そこには舞台のキャストが待ち構えており、観客にパフォーマンスの解説を始めた。そのあと、観客は向かいのビルへと入って行く。中では服屋などが営業しており観客は買い物もできる。なんだこれはと思っているうちに、観客自身も一九八〇年に韓国の光州で起こったある事件へと巻き込まれて行くのだった。

 舞台と客席の境目がないとても刺激的で面白い舞台だったが、僕はこの時に初めて光州事件のことを詳しく知った。

 韓国近代史上、最大の悲劇といわれている光州事件は、八〇年五月十七日の全斗煥らのクーデターと金大中らの逮捕をきっかけに、光州市で大学を封鎖した陸軍空挺(くうてい)部隊と、これに抗議した学生が衝突し始まった民衆による反政府蜂起だ。激しい軍部隊・機動隊の鎮圧活動に対して市民も応戦し、デモ参加者は約二十万人にも増えた。全実権を握る軍は市民を暴徒とみなし空挺部隊の一斉射撃を開始。結果として、多数の死者、負傷者を出し、数千人が拘束される事件となった。

 二十三日からの『タクシー運転手 約束は海を越えて』は、光州事件の現場を取材して世界にその真実を伝えたドイツ人記者と、彼をソウル市から光州市まで乗せたタクシー運転手の実話をモデルに描いた社会派ドラマだ。コメディータッチの冒頭から一転、緊迫のサスペンスへとエンターテインメントとしても優れた作品で、韓国を代表する実力派俳優ソン・ガンホの名演が心を震わせる。今年ベストの呼び声も高い作品だ。

 チャン・フン監督は、光州事件から四十年近くがたち韓国の若者の多くはあまり深くは知らない状況だと語る。光州事件のことを知った上で現在の民主化された韓国をどう考えるか。

 隣国であった出来事に、日本の観客は国内に自身にどう向き合うか。何を考え、何を信じるか。史実は全て地続きだ。

 笑いとスリルと感動、多くの人に楽しんでもらえる優れたエンターテインメントで、さらにその先もある。ぜひお勧めしたい。

 (シネモンド支配人・上野克)

 

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