トップ > 北陸中日新聞から > 北陸文化 > 記事一覧 > 6月の記事一覧 > 記事

ここから本文

北陸文化

【映画】地に足をつけて見る 観察映画「港町」 想田和弘監督に聞く

ドキュメンタリー映画について話す想田和弘監督=中日新聞北陸本社で

写真

 事前リサーチなし、台本なし、ナレーションや音楽もなしの「観察映画」を提唱、実践するドキュメンタリー映画の想田和弘監督の新作「港町」が金沢市のシネモンドで上映中(八日まで)だ。瀬戸内の港町で、少し耳が遠い老漁師、不思議な雰囲気を持つ老いた女性を軸に、漁から始まる前近代的とも言える昔ながらの社会の光と影が美しいモノクロ映像で浮かび上がる。次回作は米国の巨大アメリカンフットボールスタジアムが観察の対象。想田監督に聞いた。 (松岡等)

 「港町」の舞台は岡山県瀬戸内市牛窓町。前作「牡蠣(かき)工場」でのインサートショットを撮影しようと海辺に出た時、想田監督は老漁師に出会い魅了されたという。小型漁船で漁をする姿を追い、市場へ、鮮魚店へ、行商先の家々へ。「取った魚が、市場へ行って、小売店へ行って、顔の見える人の胃袋に収まる生活はシンプルだけど合理的。しかしこれが立ちゆかない。漁だけでなく、農業も、小さな製造業も同じでは」

5月26日からシネモンドで上映されている「港町」の1シーン(c)Laboratory X,Inc

写真

 後半は、撮影に度々、割り込んでいた不思議な女性クミさんが主役だ。その告白で世界は反転する。モノクロ映像の効果もあって、まるで異界の扉が開いたようだ。「表の世界から裏の世界に入ったという感覚もあったし、昼から夜の世界にいった感じもあった。一見すごく心地よく見える伝統的な社会の暗い部分でもある」。日本書紀にも地名の由来が登場するこの地の昔から続いてきた生活の光と影。その両方があって映画は魅力的になっている。

 一方でカメラが追うのは「まずニュースにならない人たち。牛窓の人たちにとってすら光の当たらない存在。しかし、こちらに話を聞く姿勢があれば、こんなにも豊かな世界が広がっていると思った」

     ◇

 「観察映画」はアメリカドキュメンタリー映画の巨匠フレデリック・ワイズマン作品から大きな影響を受けている。「最初に衝撃だったのは『ドメスティック・バイオレンス』という作品。興味深かったのは、ワイズマン自身、撮影の前にDVについての知識がほとんどなかったということ。撮影こそがリサーチであり、だからこそ発見がある。発見は編集でも続く。そこに極意を見たような感じがした」

 ただ、ワイズマン作品では撮影者が姿を消しているように見えるのに対し、想田作品ではカメラを向けている監督の影が作品の中に登場し、それに相手が答えを返す。「カメラを向けられている相手が、あたかもカメラがいないように振る舞うのは逆に不自然。カメラへの反応も含めてドキュメンタリー」と。

 個人的なつながりから作品づくりをしてきた。「テレビの仕事をしている時、『ネタが弱い』と、いつも特別なことを要求されてきた。目の前で興味深い現象があり、日常こそが人生をかたちづくっているのに、非日常ばかりを撮ろうとすることに反発があった。良く見て、聞きさえすれば、身の回りにこそおもしろいことがある。だから頑として身内からしか映画を撮らないぞ、という感じはある」と笑う。

 観察映画について「観客にも良く見て、良く聞いてほしいという思いがある」という。「今の時代、あまりに外からの情報に振り回されすぎ。だからこそ、地に足をつけて身の回りを見ることが大事だ。観察映画はこの時代への解毒剤でもあると、そんな大それたことも考えている。良く見る、良く聞くことは、立ち止まること。そういう提案でもある」

米国の巨大なアメリカンフットボールスタジアムを舞台にした「ザ・ビッグハウス」(c)2018 Regents of the University of Michigan

写真

    ◇

 引き続き公開の「THE BIG HOUSE ザ・ビッグハウス」(シネモンドでは七月七日から)は、十一万人を収容する米国のアメリカンフットボールの巨大スタジアムを「観察」した作品。「港町」とは「真逆の世界」だ。

 ミシガン大に招かれた授業の一環で学生十七人とともに手分けして撮影。宗教、人種、ジェンダーなど米国社会のさまざまな表情が浮かび上がる。とりわけ、米国のスポーツイベントが軍やナショナリズムと深く結びついていることが浮き彫りになる。撮影の二〇一六年九月から十二月は大統領選の真っ最中で、トランプ現象が起きていた。「期せずしてアメリカの転換点が撮れてしまった」

 「結果としてワイズマン作品のようになった。ワイズマンがテーマにしたのも組織と人間だったから」。共同作業によって、「観察映画」に新たな可能性を開く作品にもなった。

そうだ・かずひろ 1970年栃木県足利市生まれ。東京大文学部卒後に米国にわたり、ニューヨークのスクール・オブ・ビジュアル・アーツ映画学科卒。以後、現在までニューヨーク在住。監督作品に「選挙」「精神」「Peace」「演劇1」「演劇2」「選挙2」「牡蠣工場」など。著書に「なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか」(講談社現代新書)「熱狂なきファシズム」(河出書房新社)「観察する男」(ミシマ社)など。初めてアメリカを舞台にして撮影した最新作の舞台裏を記録した「THE BIG HOUSE アメリカを撮る」(岩波書店)も刊行。

 

この記事を印刷する

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索