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北陸文化

【美術】扇田克也さん「光のカタチ」展 富山市ガラス美術館 見飽きぬ光宿すガラス

自作について「熱と重力が生み出してくれるもの」と話す扇田克也さん=石川県内灘町で

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 シンプルにかたどられたガラスの内部に、柔らかな光が宿る。時刻によって、角度によって、人のちょっとした動きによって、光は表情を変えていく。富山市ガラス美術館で開かれている扇田克也さん(60)=石川県内灘町在住、大阪府出身=の個展「扇田克也 光のカタチ」は初期の作品から近作まで約八十点を展示。たゆたう光は見飽きることがない。(松岡等)

 扇田さんの作品に独特の光が宿る仕掛けは「コールドキャスト」という手法にある。石こうなどでつくる型にガラスの粒を詰め、時間をかけて焼く。外側は半透明、底だけを磨いて透明にすることで柔らかな光が反射し、内部にとどまる。

「雨を渡る」(2016年、高さ19.0センチ、幅85センチ、奥行き17.9センチ、作家蔵)

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 「キャスト」は型にガラスの素材を流し込み固める手法。熱で溶かしたガラスを入れる「ホットキャスト」の手法を使うことが多いが、砕いたガラスの粒を入れることで溶け方の違いや気胞などが生じてガラス内部が不均質となるために独特の表情が生まれる。

 「自分は型に溝を彫って、あとは熱と重力が作ってくれるのを待っているだけ。いわゆるガラスの作家とは違うアプローチをしている」。だから自らの肩書は「強いて言えば、造形家」という。

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「HOUSE」(2013年、高さ22.5センチ、幅30.5センチ、奥行き12.8センチ、作家蔵)

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 金沢美術工芸大で、型に金属を流し込んで造形物をつくる鋳金を学んだ扇田さん。卒業後はいったん照明機器の会社に就職するが、金属ではない新しい素材としてガラスに出合い、再び創作を志す。東京ガラス工芸研究所で学んだ後、ステンドグラスなどを制作する会社で働きながら、自宅のアパートで自作の電気炉をつくって制作するように。

 独特のコールドキャストの手法は、狭いアパートの一室で小さな炉でできることをやっているうちに生まれた手法。その後、金沢卯辰山工芸工房の立ち上げからかかわり、金沢に戻った。現在も内灘町のアトリエで使う電気炉は自作。「圧倒的に安くできるから」と笑う。

     ◇

 ガラス美術の世界で扇田さんの名前を一躍有名にしたのが一九九一年の第四回世界現代ガラス展。グランプリになる北海道立近代美術館賞に「ワタシノアヲゾラ/アメノヒモアル」が選ばれた。今や扇田さんの代名詞ともいえる対の「ガラスの家」のシリーズが生まれた。

「霧の山」(2011〜12年、高さ23.3センチ、幅18.4センチ、奥行き12.8センチ、作家蔵)

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 どこにでもありそうだが、ほんの少し非対称であり得ない形の家。そこにほんのりとしたあかりが灯(とも)るように見える。屋根の部分の銀箔(ぎんぱく)が光をさらに軟らかく抑える効果を生む。色ガラスを使った「霧の山」など山のシリーズは、趣味だった渓流釣りで訪れた富山の山中で着想された。遠くに見えるこんもりとした森をイメージさせる。展示では階段の上に並べられ、双眼鏡をのぞいて楽しむ演出が楽しい。

 花道家・上野雄次さんとのコラボレーションから生まれた花器「鋳玻璃(いはり)器」のシリーズはざらつきを残し、削った氷を思わせる。鋳物のようにして作られる「玻璃=ガラス」。「自分が使い始めた鋳玻璃という言葉だけど、いつか普及したらいいな」

     ◇

 中学生のころから親しんだポップカルチャーの影響を受けているという。図録に内外のミュージシャン、バンド、映画監督の名前を挙げたが、最も影響を受けているのは村上春樹さんの作品だ。「いつもその世界観が頭にある気がする」

「海に降る雨」(2011年、高さ23.5センチ、幅37センチ、奥行き16.3センチ、作家蔵)

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 少し傾いたガラスの塊に斜めの筋が走る「海に降る雨」は幻想的な作品だ。タイトルは村上さんの小説「国境の南、太陽の西」の最終部分の一節にある言葉から。「ちょうどネタに困っていた時に村上さんの作品から言葉を探していた」。雲間から斜めに差す光が海面を通り抜け海の底へと降りていく、そんな光景をイメージさせる。

 アトリエからすぐに海辺に出られる。「学生の頃から海と言えば内灘だった。光が海に反射し、砂丘はむき出しの地球を感じられる。気に入って暮らしています」

 「扇田克也 光のカタチ」展は九月三日まで。

 

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