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北陸文化

【美術】アイ・チョー・クリスティンさん 金沢21美で個展

自作について語るアイ・チョー・クリスティンさん=金沢市の金沢21世紀美術館で

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 インドネシアの現代美術作家で国際的に活躍するアイ・チョー・クリスティンさんの個展が、日本の美術館では初めて金沢市の金沢21世紀美術館で開かれている。絵画やインスタレーション作品を生み出す根底にあるのは「人間を人間たらしめているものは何か」と語るアイ・チョーさん。「霊性と寓意(ぐうい)」とタイトルのついた約五十点の作品の展示は、深い精神性への洞察を題材とする作家の個性とともに、多くの民族、宗教が混在する東南アジアの現代美術の一端を知る機会にもなる。(松岡等)

インドネシアの少数派

差異との共存のために

 一九七三年、バンドン生まれ。イスラム教徒が多数派を占める中で、カトリック教徒の中国系インドネシア人として育った。個展に合わせて開かれたトークイベントでアイ・チョーさんは、少数派として「あなたと私は違う」と知らされる状況での葛藤、無意識から浮かぶイメージへの関心から「自分の中の不安定さと折り合いをつけるために、絵を描く、手を動かしてきた」という。

 美術を学ぶことを志したのも「自国でのマイノリティーの一員として、一つの解決策が作品づくり。声高でなくとも、何かを変えていくことへの働きかけにつながる。それも、異なる人と仲良くすることを願っているから」と。

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「フリージング 01」(2017〜18年、油彩、カンバス、縦170センチ、横200センチ、作家蔵、(C)Ay  Tjoe Christine , courtesy of Ota Fine Arts)

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 テキスタイルデザイナーなどを経て、制作の初期には有機物である木や根を描いた。腐食液を使わず銅版に直接、線描することでささくれやめくれによるにじみを表現するドライポイントの手法で、樹木や植物を題材にした版画を制作。油彩に移ってからも、ドライポイントの掃いたような質感を生かすため、「オイルバー」と呼ばれる棒状の油絵の具を用いる。かすれた部分を含めた勢いのある筆致と多様な色彩、透明感が層をつくり、平面に奥行きや立体感を生む。

 抽象画のようでありながら、部分的に動物や植物も描き、ほとばしるような鮮烈な赤が印象に残る絵画群。宗教的な説話などをモチーフにしながら、大勢の他者と共存していくために人はどうあるべきか、自我が他者とともに安心していられる可能性への模索があるという。

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 同美術館の島敦彦館長は、「作品がつくられる背景やタイトルの言葉を離れて多様な受け止めがあっていい」と前置きした上で、油彩画の「ひっかくような独特の筆触、ほとばしる色彩の形を追うだけで絵に没入できる」といい、鮮烈な赤色を「血液のよう」と例えて「生と死は紙一重であると感じさせる」と評した。

「Lama Sabakhtani#01」(2010年、木、金属、ワイヤ、真鍮玉、幅430センチ、奥行き250センチ、高さ400センチ、(C)Ay Tjoe Christine , courtesy of Ota Fine Arts)

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 一方、近作の「フリージング」のシリーズでアイ・チョーさんは黒色を基調にした。「黒は心の奥にひそむ闇の側面。それを引きずり出し、客観的に見詰めることで、新たな可能性があるかもしれない」

 それにしても、インスタレーション作品「Lama Sabakhtani#01」のインパクトは強烈だ。ギロチン台を思わせる装置が作動すると、刃がゆっくりと上がり、ごう音とともに落下。同時に真鍮(しんちゅう)玉がぶつかり合って祝祭の音を奏でる。タイトルは処刑されたキリストが言ったといわれる有名な言葉「神はなぜ私を見捨てるのか」から。島館長は「怖くても直視しなければならない作品」と評した。

 八月十九日まで。

 

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