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北陸文化

【プレイハウスへようこそ カーディフ&ミラーの世界】(下) 寄稿 黒沢浩美

いつの間にか物語の中

 二十世紀を代表する作家、フランツ・カフカによる「流刑地にて」という短編小説をご存知(ぞんじ)でしょうか。罪人を裁き処刑するという任にある将校が、調査旅行に訪れた人に処刑装置を説明するところから物語は始まります。受刑者を椅子に縛り付けて死ぬまで罪状を刻むという話は、痛々しく恐ろしいのですが、それ以上に、将校の淡々とした様子が、かえって静かな恐怖を感じさせます。

《キリング・マシン》2007年

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キリング・マシン

 この物語がカーディフ&ミラーを触発し、《キリング・マシン》(二〇〇七年)の誕生につながりました。二〇〇一年頃に制作に着手、ちょうど9・11(アメリカ同時多発テロ)があり、彼らはベルリンに滞在していました。人間が人間を裁くという重いテーマを取り上げたことについて、「ベルリンの冬は天気が憂鬱(ゆううつ)だったから」と、半ば冗談のように二人は笑い合いますが、当時は、戦禍による不安、孤独や絶望といった重苦しい感じに世界が包まれていました。彼らはこの作品によって、その時代の空気に応答したのです。

 《キリング・マシン》には三人の「不在」が表現されています。処刑される人、処刑する人、そして、それを傍観者として物語る人です。「傍観者」とは、つまり、カフカの視点ですが、カーディフ&ミラーの作品では、見る私たちが「傍観者」の役割を担っているのかもしれません。

《小さな部屋のためのオペラ》2005年(ともにCourtesy of the artists, Gallery Koyanagi, Tokyo and Luhrig Augustine, New York 撮影:木奥恵三)

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小さな部屋のためのオペラ

 最後にご紹介するのは《小さな部屋のためのオペラ》(〇五年)です。たくさんのレコードが山積みの、散らかった小屋の中を舞台にして、ある男が、悲しく孤独な自分の人生を振り返り、結局みんな死んでいくのだ、という絶望のオペラを上演しています。雷雨や電車の音に合わせて、小屋の中のシャンデリアが揺れたり、ランプが点滅したり。小屋の外の環境が直接影響しているかのような仕掛けもあり、舞台を見ているつもりが、いつの間にか自分の周りに大きな空間を感じ始めます。

 オペラは、音楽と美術の融合によって、私たちを物語の世界に誘うもので、カーディフ&ミラーの世界観を実現するには最適の表現形式です。現実と想像の世界の境界を曖昧にして、人々を物語に完全に取り込んでしまう。彼らの魅力が凝縮された、世界に一つのプレイハウス(劇場)です。

 (くろさわ・ひろみ=金沢21世紀美術館チーフ・キュレーター)

     ◇

 「ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラー」展は金沢21世紀美術館で三月十一日まで開催。

 

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