トップ > 北陸中日新聞から > 北陸文化 > 記事一覧 > 1月の記事一覧 > 記事

ここから本文

北陸文化

【プレイハウスへようこそ カーディフ&ミラーの世界】(中) 寄稿 黒沢浩美

(右)《アントネロとの対話》(2015年) (左)《驚異の小部屋》(2017年)= ともにCoutesy of the artist, Gallery koyanagi, Tokyo and Luhring Augustine, New York 撮影:木奥恵三

写真

音で飛び超える時空

驚異の小部屋 アントネロとの対話

 展示室の中央に置かれた建物の模型。その脇にある机は誰かが作業中といったふうで、一枚の絵画の複製が置かれています。

 元の絵画作品はルネサンス期の画家、アントネロ・ダ・メッシーナによる《書斎の聖ヒエロニムス》(一四七五年、ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵)といい、初期ベネチア派絵画の名品のひとつと言われています。聖職者ヒエロニムスが椅子に座り学問を修める様子を中心に、「高い/低い」「遠い/近い」「大きい/小さい」といった空間の関係性を、実際に見たままに表現しようとしたのでしょう。比較的小さな作品でありながら、描かれた空間は壮大です。

 古くから画家は目に映る像をなるべく正確に描き写したいと考えてきましたから、三次元を二次元に置き換えるための遠近法や透視法と呼ばれる手法は、とても大きな発見だったのです。

 カーディフ&ミラーは、この絵画作品を元に、画家の作業を逆戻りして二次元を三次元に置き換えてみました。それが《アントネロとの対話》(二〇一五年)です。絵画作品を注意深く計測・観察して模型にしてみたところ、画家の視点と同じところから見ているにもかかわらず、絵のようにするには、建物の奥の両脇の空間を拡張しなければなりませんでした。豊かな自然の中で、神の教えに学ぶ穏やかな生活は、目に見る以上に展示室全体を包む音からも感じ取ることができます。カウンターテナーの澄んだ歌声、馬足が近づき、そして遠ざかる。雷鳴や鳥の鳴き声など、まるで、再現された時代と場所に移送されたかのように思えてきます。

 こうした、カーディフ&ミラーの作品に表れる「音」は、実に多彩で魅力的です。彼らは常日頃から、気に入った音をアーカイブ(記録・保存)しています。朗読、演説、映画の効果音、台詞、歌声などなど。自然や街中で採録した音源も加えると、さながら音の図書館のような充実ぶりです。

 《驚異の小部屋》(二〇一七年)は、その中から二十の音を選び、年代物の家具の引き出しにひとつずつ収めた作品です。そっと引き出すと、少女の歌声、もうひとつ引き出すと電話の呼び鈴、引き出しを閉じると音はやみます。この作品の引き出しは、過去の記憶を失わないように大切にしまっておきたいという人間の願いを象徴していますし、何よりも《驚異の小部屋》という作品の題名は、未知のものや、さまざまな驚きを保管し展示する美術館(驚異の部屋)にぴったりです。 (くろさわ・ひろみ=金沢21世紀美術館チーフ・キュレーター)

 「ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラー」展は金沢21世紀美術館で三月十一日まで開催。

 

この記事を印刷する

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索