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北陸文化

【コミュニティシネマ 街中銀幕から】 「禅と骨」の中村高寛監督

 正月の上映がそこそこに好調で、まずまずの新年を迎えることができた。どんなにいい映画を上映していても、見てもらえなければ伝わらない。昨年は過去最多となる百九十七作品を上映していたが、今年はどんな映画との出会いが待っているか楽しみである。

 今年初のゲストは『禅と骨』の中村高寛監督だ。上映初日となる一月二十七日に来館して舞台挨拶を行う。中村監督にとっては真っ白な厚塗りの化粧に貴族のようなドレスに身を包み、横浜の街角に立っていた“ハマのメリーさん”を描いた前作『ヨコハマメリー』以来十一年ぶりの新作だ。

 『禅と骨』はちょっとすごい作品だ。圧倒された。京都の嵐山の名刹(めいさつ)、天龍寺の禅僧である日系アメリカ人ヘンリ・ミトワの生涯を描いたドキュメンタリー作品。中村監督が再びホームグラウンドである横浜から送る傑作だ。

 物語は横浜に馴染(なじ)み深い童謡「赤い靴」から始まる。かつて横浜で生まれ、赤い靴をモチーフに映画を製作しようとしている老人がいる。その男ヘンリ・ミトワは一九一八年にアメリカ人の父と新橋の芸者だった日本人の母との間に生まれた。一九四〇年に単身渡米するが、戦時中は敵性外国人として日系人強制収容所で暮らす。

 戦後、ロサンゼルスで幸せな家庭を築き、一九六一年に帰国。時代の波に翻弄(ほんろう)されながらも、日本文化をこよなく愛し、茶道や陶芸、文筆などに優れた才能を発揮した。そんなヘンリは八十歳を目前に、「赤い靴」の映画を作りたいという夢を実現するべく、家族や周辺の人々を巻き込み活動を始める。禅僧としても文化人としても高名なヘンリだが、本作の中で取材が進んでいくと彼のさまざまな面が浮かび上がってくる。

 禅の教えを説いたり、禅僧としての彼を紹介したりする作品ではない。ヘンリ・ミトワという、青い目の禅僧という文化人としてのイメージから離れ、複雑で胡散臭(うさんくさ)くてどこか魅力的な、昭和を生きた一人の男の波乱万丈(はらんばんじょう)な人生の物語だ。家族のそれぞれの彼への思い。そして彼の根底にある母への思い。映画は終盤になるにつれ、ミステリのような緊迫感とサスペンスを持って、ヘンリ・ミトワという人間をここまで描くのかというくらいにむき出しにしていく。

 なぜ赤い靴なのか?そしてタイトルである「禅と骨」という意味がしっくりとくる頃には心をかき乱されるような感動が待っている。聖と俗、生きるとは何か、なぜ生きるのか。家族とは、愛とは。いろいろな思いが湧き上がるだろう。 (シネモンド支配人・上野克)

 

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