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北陸文化

【プレイハウスへようこそ カーディフ&ミラーの世界】(上) 寄稿 黒沢浩美

ビデオ・ウォークの代表作《ALTER BAHNHOF VIDEO WALK》(2012年)

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 金沢21世紀美術館で開かれている「ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラー」展(三月十一日まで)。企画した同美術館の黒沢浩美チーフ・キュレーターに、その見どころを三回にわたり寄稿してもらった。

作品中にいる自分 錯覚

 ジャネット・カーディフ(一九五七年、カナダ・オンタリオ州ブリュッセルズ生まれ)とジョージ・ビュレス・ミラー(一九六〇年、同・アルバータ州ヴェグレヴィル生まれ)はカナダ出身の現代美術作家です。二人は、学生時代にカナダのアルバータ大学で出会った後、一九九五年頃から共同制作を始め、互いの得意とする分野を組み合わせたすばらしい作品を次々と発表しています。

ビデオ・ウオーク

 「ビデオ・ウォーク」と呼ばれる彼らの代表的な作品では、カーディフが詩的で深遠な言葉で脚本を書き、自ら朗読して語りかけ、ミラーの高度な音響技術と融合して大きな注目を集めました。(今回は出品していません)

 これは、あらかじめiPod(アイポッド)に録画された画面を見ながら、街中でイヤホンを付けて、ひとりで歩くもので、モニターの中のイメージと、実際にその場で見ているイメージが重なり合います。その間、カーディフが、あたかも隣にいるかのようにイヤホン越しに物語を囁(ささや)きかけるため、だんだんと、何が現実で何がフィクションか混乱し始め、しかし、次第に深く引き込まれてしまいます。

《プレイハウス》(1997年、撮影:木奥恵三)=ともにCoutesy of the artist,Gallery koyanagi,Tokyo and Luhring Augustine,New York

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プレイハウス

 このような音と映像を使った一人ずつの体験を、椅子に座ったままで可能にしたのが、劇場を意味する作品《プレイハウス》(1997年)です。劇場にあるようなカーテンを開いて中に入ると一脚の椅子があり、ヘッドホンをつけて座ると、目の前に舞台が現れます。

 舞台は映像で、小人のようなオペラシンガーが現れ、歌を歌います。そして、あなたの隣の席に座った観客があなたに話しかけます。わずか五分の作品ですが、劇場でオペラを観ている間に起きるかもしれないワンシーンを、音と映像で見事に作り出しています。「ビデオ・ウォーク」のように現実が介入することがないだけに、作品への没入感は完璧といってもいいでしょう。

 また、バイノーラル録音という技術を使った音が、聞いているだけで空間の深さや周辺の環境を、目に見えるがごとくに再現しています。カーテンコールの途中で、「あっ、もう行かなくちゃ」と言うカーディフの声が聞こえると、隣の席の人が中座したかのような錯覚にかられます。「プレイハウス」は小さな装置ですが、カーディフ&ミラーの魔法にかかると十分に広い劇場でオペラを聴いているように思えてくるのが不思議です。

 (くろさわ・ひろみ)

 

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