トップ > 北陸中日新聞から > 北陸文化 > 記事一覧 > 12月の記事一覧 > 記事

ここから本文

北陸文化

【街の記憶 前田マリ】(30) 師走の雪のこと

「大雪、東山」

写真

白銀の道 遠くまで

 子供の頃、冬の夜は、布団のなかにすっぽりともぐって眠った。あたたかかった。雪雷さまがうなりながら戸をガタガタ揺らす音も、ちょっとだけ小さくなった。

 日中、ずっと火鉢やストーブを焚(た)いていても、夜、火を落とすととたんに、どこかからすぅーっと風が入ってきて、部屋を冷たくしていった。屋根の雪は溶けるより先に次の雪がその上に積もっていく、そのくりかえし。最初の雪はカチカチで、重石(おもし)みたいになって屋根からぎゅーっと家を圧しているらしい。それがわかるのが、ふすまの開け閉めだ。日に日に難儀していった。敷居に蝋(ろう)を塗ったところで、気持ちよくシャーとふすまが滑ってくれることは、この時期にはないのである。

 あのころの私の悩みは、しもやけだった。布団のなかでからだがあたたまってくると、ムズムズとしてきた。左の足の薬指がぷくっと赤く腫れて、かゆくて、じーんと痛い、へんな感じだった。学校の友だちには、手の指の付け根が大きく腫れて熱をもった子や、腫れたところがくずれて痛々しい、私よりずっと重症の子もいた。鉛筆を握るのも辛(つら)そうで、かわいそうだった。

 十二月、師走に入ると、年越しの準備で私の家もせわしなくなってきた。いつもより念入りなそうじに、晴れ間をみて障子を洗って、張り替える。食品や、正月のお飾りも買い揃(そろ)えた。玄関の三重ねの飾りわらに、床の間にお台所に、ご不浄に、自動車に、いろんな〆(しめ)飾りがあった。暮れもせまる頃には菓子屋さんから、お鏡とのし餅が届く。くっつかぬよう大根と餅に交互に包丁を入れながら、竹の鯨尺を沿えて父が切った餅は、角の直な美しいものだった。その前にはクリスマスもある。サンタクロースが届けるサービスを片町のおもちゃ屋さんはしていたけれど、我が家にやってきたのはうんと細身な、赤い帽子の端っこにちょいと黒い毛がのぞいたサンタさん、私と弟の期待は大きくはずれてしまった。

 布団から顔をだすと静かな、とても静かな朝も、あった。外は大雪。あちこちでようやく屋根の雪おろしをしたものの、せまい路地に寄りそうように暮らすこの花街に、行き場のみつからぬ雪が居残った。そして、また雪が降り積もる…。玄関の向こうに、雪の壁を切り出して父がこしらえただんだんがみえた。のぼると白銀の道が遠くまでずっと続いていた。

 茶の間には、あとわずかとなった日めくりの後ろにどっさりの来年の日めくりが、今か今かと出番を待っていた。雪との付き合いは、ながくなりそうだった、しもやけも、いっしょに。

 (まえだ・まり=イラストレーター・画家、金沢・東山生まれ)

 ※次回は来年1月6日に掲載します。

 

この記事を印刷する

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索