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北陸文化

【文学】歌や音豊か 鏡花の世界 文学賞授賞式 松浦理英子さん語る

泉鏡花文学賞を受賞し、スピーチする松浦理英子さん=金沢市の金沢市民芸術村で

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 第四十五回泉鏡花文学賞を「最愛の子ども」(文芸春秋)で受賞した松浦理英子さん(59)。十九日に金沢市の同市民芸術村であった授賞式でのスピーチは、選考委員の五木寛之さんが「歴代のベスト3に入る」というほど充実した「鏡花論」だった。鏡花と自作との共通性として作中に「歌」を取り入れることを挙げ、「聖と俗、醜と美を同じ人物に当たり前に同居させる。そこに鏡花文学の倫理感を感じる」と独自の鏡花観を語った。

 「作品に歌を出すと、その歌の周辺に特別な磁場が発生しイメージが広がるとか、他の文章の言葉と別の形式の言葉が入るのでそこに言葉と言葉のちょっとした衝突が起こるとか、あるいは作中の音の響きが格段によくなるとかの作用がある」と指摘する。

 「鏡花は極めて耳のいい作家で、文章のリズム感もいいけれど、作品の中で鳴り響く歌もたいへん豊か」とし、「歌行燈」では主人公の歌声をはじめ、「下駄の音とか、あんまの笛の音とか、さまざまな音がことさらな描写はなくても、空間を切るように読者の耳に届く」という。

 「夜叉ケ池」では、日照りが続く中、雨を切望する鯉の精とカニの精が歌う場面で歌が登場する。「山を川にしょう」というシンプルな歌詞を「極限まで無駄がなく、山から川へという概念の飛躍があって、読み手のイメージはもちろん情動まで喚起する。俗謡=ポピュラーミュージックが大好きな私は、この歌詞にしびれる。戦前のアメリカのブルースのようだと感じる」と。

 「高野聖」で山中で暮らす異形の男が民謡の木曽節と思われる民謡を歌うが、ここではその異形であることと、美しい歌が同居することへの共感を語った。「異形のものが素敵(すてき)な、魅力的な声で歌うという、そのことが私のツボにはまるのは確か」「一般的に相反する印象を与えるものの中に同居、併存を好ましく感じるのだと思う」

 美と醜、聖と俗。「鏡花は、醜や俗を美や聖に昇華させようとしているのではなく、拮抗(きっこう)させたり、同じ位置に引き下ろそうとしているのでもなく、それをごく当たり前のように一人の人物の中に併存させる」と分析。「当たり前のように、自然にというところが、大切。醜や俗の昇華だとか、聖や俗の引き下ろしなどは、たとえ正義感からなされることであっても、それは文学の権力行使にすぎない」といい、鏡花が「裸の視線で見いだしたものをあるがままに書くという態度で書いている。そこにはもちろん作家の選択、意志があり、その態度を選ぶところに、たんなる正義感に納めることのできない、鏡花の倫理性を感じる」と話した。

     ◇

 スピーチに先立つ記者会見で、私立高校を舞台に三人の女子高校生が疑似家族を演じる今回の受賞作「最愛の子ども」について、「一言で言えば、男性や大人たちから好かれない、愛されない少女たちの物語。少女であることが無力でつらいことだと、孤独なことだと思っている若い女性に読んで欲しい。この作品を読んで力を得てくれればうれしい」と語った松浦さん。

 今後の作家活動について「具体的に想(そう)はまとまっていないが、私は文学を、主流の人々を安心させるのではなく、マイナーな存在、孤独な存在に寄り添うものだと思いたい。だから、これからもそうした作品を書いていきたい」と言い切った。

 

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