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北陸文化

ロマン・ガリ「夜明けの約束」を翻訳・出版 岩津航・金沢大准教授に聞く

ロマン・ガリの「夜明けの約束」を邦訳した岩津航さん=金沢市の金沢大角間キャンパスで

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 フランスの人気作家ロマン・ガリ(一九一四〜八〇年)の代表作でありながら、これまで邦訳のなかった小説「夜明けの約束」(共和国)を金沢大准教授の岩津航さん(42)が翻訳、出版した。ユダヤ系ロシア移民で少年時代をポーランドで過ごした後にフランス帰化。対ナチス戦を戦って、戦後に外交官になるまでの半生を、強烈な個性の母親からの愛との葛藤とそこからの自立という物語として描いた自伝的作品だ。その魅力と今、ガリを読む意味を聞いた。 (松岡等)

人間へのまなざし 現在の日本でこそ

 母語ではないフランス語で書く一方で、外交官になり、女優ジーン・セバーグと結婚し、生涯に一度と決められているフランスで最も権威あるゴンクール賞を、別の名義で二度受賞したことでも知られる。

 政治的にド・ゴールに近く、サルトル派の左翼的な知識人の困惑もあって学術的な評価は遅れたものの、人気は絶大。「夜明けの約束」は一九六〇年の出版からベストセラーとなり、自ら手掛けた英訳をはじめ十四カ国で翻訳された。ブロードウエーでミュージカルとして上演され、七〇年には映画化もされた。

 移民家庭としてフランスで生き抜く母と主人公の息子の物語。母は息子に強烈な愛情を注ぎ、その期待に息苦しさを感じながら主人公は自立していく。母に英雄であることを求められ、第二次大戦に入ると主人公は、空軍に入ってナチスと戦い、戦後は外交官に。ユーモアも交えた独特の文体で、正義のために生きることと、その痛みをも描く。

 ガリの生き方は、ド・ゴールと同じ外交官でもあったアンドレ・マルローを思わせ、人間の自由をめぐって苦しむ様がアルベール・カミュの「シーシュポスの神話」と比較できるかもしれないと岩津さんはいう。

 戦争の描き方もユニークだ。「日本では多くの人が日本で生まれ、日本人として生きていくことに慣れているが、そうではない生き方がここには描かれている。日本は敗戦国でもあり、戦争の『正義』を肯定する文学は生まれにくい。ガリはフランスの正義に賭けた。韓国や台湾から日本に来た人々とはそこが大きく異なる」と指摘する。

 では、日本で今、ガリの文学を読むとすればどんな意義があるだろう。岩津さんは「ガリは、人間とはこういうものだと簡単には言わない作家。人間には、理想に近づこうという力もあれば、残虐なことをしたり堕落したりする面もあることを示しながら、問いかけをくれる。他者への想像力に欠けているように思える現在の日本だからこそ読まれてほしい」と話す。

 「夜明けの約束」は今年、フランスの人気男優のピエール・ニネと母親役にシャルロット・ゲンズブールが起用されて二度目の映画化が実現した。日本での公開は未定だが、今回の邦訳とも併せて、日本でもガリ文学が再発見される機運が高まるかもしれない。

 ロマン・ガリ 1914年ロシア領ヴィリア(現リトアニアの首都ビリニュス)生まれ。35年にフランス国籍を取得。第2次世界大戦では空軍で対独戦に従事。戦後は外交官として各国に赴任しながら、作家として活躍した。主な作品に「白い嘘」(44年)、「自由の大地」(56年)、「白い犬」(70年)、「これからの一生」(エミール・アジャール名義、75年)など。自らの短編を原作にした映画「ペルーの鳥」(65年)では妻ジーン・セバーグを主演に監督を務めた。80年にパリの自宅で自殺。

 いわつ・こう 金沢大人間社会学域准教授(フランス文学、比較文学)1975年大阪府生まれ。関西学院大卒後、パリ第4大博士課程修了、博士(文学)。著書に「死の島からの旅−福永武彦と神話・芸術・文学」(世界思想社)、「近代日本とフランス象徴主義」(共著、水声社)、「文学海を渡る−<越境と変容>の新展開」(同、三弥井書店)。訳書にウーク・チャング「キムチ」(青土社)。

 

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