トップ > 北陸中日新聞から > 北陸文化 > 記事一覧 > 11月の記事一覧 > 記事

ここから本文

北陸文化

【街の記憶 前田マリ】(29) 小さな宇宙のこと

星の町

写真

「美しい星」は何度も

 日の出のすこし前、ちょっとカーテンを開けて、空をながめたりしている。ビルのあちこちに夜通しの明かりが灯(とも)るオフィス街の空に、キラリと星ひとつ、みえる時もあった。東の空に輝くのは、明けの明星、金星だ。

 星をみたり、月をみたりは子供のころから好きだった。お星さまとお月さまは、母と娘の会話にしじゅう顔をみせた。直接みるのではなく、部屋に差し込む月の光の移ろいを愛(め)でることも、母は私に教えてくれた。

 学校にあがる頃、広坂にプラネタリウムができた。知事さんの公邸のお向かいあたりに。このプラネタリウムは外からはちいちゃくみえるのに、中に入るとそれなりの大きさがあって、不思議だった。「さぁ、宇宙へ出発だ」と、つぶやいて椅子にきちんと座りなおしてみたものの、上を向いてばかりでは、だんだんと、首のあたりがしびれてくる。終わって外に出るや、まぶしさにちょっぴりよろめいて、咄嗟(とっさ)にいつだったかテレビでみた月面の宇宙飛行士の動きを友だちとまねてみたり…。母と話した頃よりうんと月や星は近いものになった気がしていた。

 そして広坂には、プラネタリウムからさほど遠くないところに、もうひとつ、子供の私たちのおたのしみがあったのである。大通りに向かう道の左手に市役所がみえる、そのすぐそばに。

 そこで私たちはずいぶん待たされたのだ。だんだんと不安な気持ちも高まっていったのだ。コトンと聞こえたちいさな音にも過剰に反応したのだ。そして皆で自動販売機の取り出し口に現れた白い小箱に見入っていたのである。小箱をあけるとなかに、ハンバーガーがひとつ。これがとっても「宇宙的」だったのである。もしここでたこ焼きやたい焼きがでてきても、ちっともたのしくなかった。ハンバーガーが、空飛ぶ円盤にぴったりなのだ。こづかいを出し合ってのおたのしみ、かわいいもんだった。待ったわりに、なんともぬるいハンバーガーだったのだけど。

 三島由紀夫の『美しい星』を読み返している。十五のとき手に入れた一冊だ。映画『スターウォーズ』に夢中のころだったからタイトルだけで欲しくなったのかもしれない。『花ざかりの森』からはじまって『真夏の死』や『仮面の告白』と、あのころ次々手にいれた、本屋にもツケがきくのをいいことに。映画雑誌等に参考書、解答集のようなものまであったところに三島由紀夫が加わっていった。月末となれば、もちろん親の元に請求書が届くのだ。悪賢くなったもんである。

 『美しい星』に登場する星の町金沢の、五彩のギヤマンきらめく尾山神社に、三島が大好きだった猫を配して描いてみた。三島を思う十一月、今宵はまんまるお月さまも顔をみせてくれるかな。(まえだ・まり=イラストレーター、画家、金沢・東山生まれ)※次回は12月2日に掲載します。

 

この記事を印刷する

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索