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北陸文化

【映画】富山県内でロケ「ナラタージュ」 行定監督に聞く

「高岡には映画のセットかと思うような路地があちこちにあった」と話す映画「ナラタージュ」の行定勲監督=金沢市の中日新聞北陸本社で

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 富山県内が主要なロケ地となった恋愛映画「ナラタージュ」が七日、公開される。高校教師と生徒として出会い、再会後に許されない激しい恋に落ちるラブストーリー。「世界の中心で、愛をさけぶ」「春の雪」などの行定勲監督が、原作になった島本理生さんの同名小説に出合って十年以上。松本潤さん、有村架純さんという豪華キャストでようやく映画化が実現した。「日本映画に欠けていた恋愛の生々しさを描きたかった」。北陸特有の鈍色の空、時間の止まったような街並みを背景に男女の切実さを描いた行定監督に聞いた。 (聞き手・松岡等)

生々しさ描けた 高岡 路地に魅力

 −企画から長くかかった。

 原作を渡されたのが「世界の中心で…」の翌年。女子大生が主人公だが、大人の階段を上るという次元でなく、男と女のどうしようもなさというのが描かれていた。濃密さ、筆圧の高さを感じ、おもしろいものになるなと思った。純愛より、むしろにおうような恋愛のほうが自分にはなじむし、やりたいことに近かった。ただ、女優にリスクが大きいというとらえ方をされ、いったん頓挫していた。

 ずっと原作の生々しさが今の日本映画に足りていないという確信めいたものがあった。分かりいい、ファンタスティックできらきらとした男女の出会いみたいなものが恋愛劇とされ、その状況が長く続いているが、そこを逸脱し、こういう映画を作るべきじゃないのという提示をしたかった。

 −動きだしたのは。

 二〇一五年に松本君をキャスティングしたらどうかという意見が出て、本人と話し合った時、「この原作はやる意味がある」と食いついてくれた。その後に有村さんが決まった。

 きらきらとしたラブストーリーは飽和状態で、それとは違うにおいがあるものをやりたかったし、こういう映画を待っていた人もいるはず。インディーズの感覚でやればもっと早くできたとは思うが、限られた人間に届けばいいという発想では世の中の記憶に残せない。原作を読んだときから、そうはしたくない、メジャーで扱う題材だというのがあった。

 −有村さんのキャスティングは。

 本人が行定組を経験したいと言ってくれているのを以前からスタッフを通じ聞いていた。彼女は自分が前に出るタイプではないけれど、女優としてのこだわりがあり、芯の強さが役にぴったりだった。

 恋愛を自分の人生のように生々しく演じなきゃいけない役で、難しかったと思う。二人の男のはざまで揺れる気持ち、二人に感じる瞬間、瞬間のいらだち。そういうのがちゃんと自分の中に生まれるように追い込んでいったというか。苦しい一カ月半だったのではないか。その自問自答が、それが表情に出ていた。心情をあらわにした顔というか。いい意味で「不細工な顔だったね」と声をかけると、彼女も「うれしかった」と言っていた。

 −原作でもそうだが「映画」へのオマージュがちりばめられている。

 トリュフォーの映画「隣の女」は原作になく、脚本で書かれていた。「隣の女」という映画は、引っ越してきた近所に恋人が住んでいて、男を見た女が卒倒する話。それを女子高生が先生に話すということは「それくらい好き」と言っているともとれるけれど、先生のほうはどこ吹く風で「そうか、トリュフォーだね」と答える。そこに「私は『隣の女』って言ってるんだよ」という、女性の側のいらだちがある。

 映画で人生を語るというのはおもしろい試み。ただそれが分からない人たちにも、後で振り返ってもらえればいい。成瀬巳喜男特集を見て、彼女は何を思ったんだろうとか、ああ大人の恋愛はこんなに苦労するんだとか。

 「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のDVDのパッケージを手に取る場面は原作にもある。それを奥さんが好きだというところで僕は爆笑したが、うまく脚本に落とし込めた。パッケージを見せるだけで、あのシーンの二人の気まずさやそこにはいない奥さんの人としてのにおいが、分かる人には分かる。でも、分からない人がいるからといって、そこを丸くしてしまうのではなく、どうしても入れたかった。

 そういうところで、映画好きの二人にしか理解できないことが伝わる。映画好きが二人集まってマニアックに話していると周りの人が引いたりする。その空気感がこの映画には重要だと思った。

 −ロケ地に富山を選んだのは。

 金沢を舞台にした大森一樹監督の「恋する女たち」という映画がヒントになった。ロケハンで富山を訪れた時、高岡の街がよかった。くすんだ感じや美しい黒瓦。川原が空との境界線を締めていた。ダークトーンで、雨が降るとしっとりと情緒ある。古城公園の壕(ほり)沿いとか。

 一番の発見は万葉線だった。別れのシーンに電車を絡めると絶対よくなると直感した。高岡の路地を歩いていていると、「ここはセットなのか」と誤解するようなところがあちこちにあった。喫茶店、飲み屋街、雨を降らした駐車場…。今回の映画は富山の風景が登場人物の一つ。あの曇り空が全体のトーンをつくってくれた。

 

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