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北陸文化

【音楽】オルガン 新たな魅力 寄稿 潮博恵

OEKが委嘱したエスケシュのオルガン協奏曲の初演=7月18日、金沢市の石川県立音楽堂で

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OEK × 今季委嘱作曲家エスケシュ 

金沢など4公演 現代音楽の新作 集客に難しさも

 毎年同時代の作曲家に新作を委嘱しているオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)。二〇一六/一七年シーズンはフランスのティエリー・エスケシュにオルガン協奏曲を依頼し、七月十八日に金沢市の石川県立音楽堂でエスケシュの独奏、井上道義の指揮により世界初演した後、那須野が原ハーモニーホール(栃木県大田原市)、松本市音楽文化ホール(長野県松本市)、ミューザ川崎シンフォニーホール(川崎市)の三カ所へツアーを行った。

 作品はオルガンの既成概念を覆し、オーケストラの一部として位置付ける面白さに満ちたもの。古い旋法からテクノまでさまざまな要素を盛り込んだ音楽はジャンルを超え、各地の聴衆から熱い反応を引き出した。

 四公演を体験してみると、興味深い発見が多々あった。まずオルガン。音色ではドイツ系が並ぶ中、フレンチ・シンフォニックな那須野が原に特色があったが、オルガンがホールと一体となって音が生きているという点では松本が抜きんでていた。三十年前の設置当初より専属オルガニストを置いて多くの企画を実現し、オルガンをひんぱんに鳴らす努力をしてきたという。石川県立音楽堂はOEKのリハーサルに使っている特殊事情はあるにせよ、このオルガンを育てる姿勢は参考になる。

 各ホールの音響も永田音響設計という同じ会社が手掛けたにもかかわらず、驚くほど異なっていた。中でも川崎は解像度が非常に高く、音が立体的に聴(き)こえる。オルガンという楽器を使ったからこその音響空間が見事に立ち現れていた。考えてみれば、優れたホールとオルガンが各地にある日本は世界的に見て稀有(けう)な国。今回の企画をさらに磨けば、魅力的な広域の観光コンテンツにもなるのではないか。

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 演奏は回を重ねるごとに自発性と完成度を増し、作品が演奏によって成長することを実感したが、新作をメインに据えたツアーは集客の難しさも浮き彫りにした。新作は事前に内容がわからないことや現代音楽は情報量が多く、公演で一回聴いただけでは聴き手がキャッチしきれない点がボトルネック。実際私も何度も聴くうちに気づきが増えてより音楽を楽しめるようになった。例えばフランスでは、演奏前に作曲家が曲のコンセプトや構造などを話し、聴く土台を作ってから演奏するという。工夫の余地がまだまだある部分だろう。

 最後になったが、今回は首席チェリストのルドビート・カンタの独奏によるサンサーンスのチェロ協奏曲第一番も目玉であった。ツアーの後、井上が来年三月末で音楽監督を退任することが発表されたが、心に染み入るカンタの音色と共に歩んだツアーは、井上とOEKにとって記憶に残るものとなった。 (音楽ジャーナリスト)

 うしお・ひろえ 石川県野々市市出身。音楽と社会とのつながりをテーマに執筆活動を展開。著書に「オーケストラは未来をつくる−マイケル・ティルソン・トーマスとサンフランシスコ交響楽団の挑戦」「古都のオーケストラ、世界へ!−『オーケストラ・アンサンブル金沢』がひらく地方文化の未来」(ともにアルテスパブリッシング)

 

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