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北陸文化

【美術】弱虫 誰の中にもいる 川越ゆりえさん 個展

「弱虫標本」2013年(185.5×255.5×14.7センチ)(C)KAWAGOEYurie作家蔵

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 人の心には誰もが普通なら人には見せたくないような弱さやさみしさ、嫉妬といったほの暗い感情が巣くっている。それを架空の虫の形にして標本にしてしまうアーティスト川越ゆりえさんの個展「弱虫標本」が金沢21世紀美術館で開かれている。川越さんは「誰もが自分の中に持っているかもしれない。自分の心と対話して、楽しげな気持ちで見てもらえれば」と話す。 (松岡等)

金沢21美「弱虫標本」

 川越さんは一九八七年富山県生まれ、富山大大学院芸術文化学研究科修了。二〇一三年の大学院修了制作展で、作家、編集者の都築響一さんが選ぶ「都築響一賞」を受賞した。個展に合わせて、六月三日に同美術館であった都築さんとの対談で、川越さんは虫たち制作に至るまでの自身が抱えたネガティブな気持ちをあっけらかんと語り、会場の笑いを誘った。

 小中学校ではいじめられっ子。人の顔色をうかがうような子だったという。一方で、「かっこいい人がふと見せる弱さが好き」。なんだか暗いが、「家で作ったり、描いている時は好きで」。それが学生になって制作のテーマになった。「三年次のグループ展で、初めて自分の心を標本のように整理したくて、作ったのが始まり。標本=(イコール)虫だろうと。それがなぜかほめられた」

都築響一さん(右)との対談で自作を語る川越ゆりえさん=金沢21世紀美術館で

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 個展のタイトルにもなっている「弱虫標本」(二〇一三年)は「自分を見つめ直した時に臆病さが一番にあって、エネルギーを込めた。気弱に攻めるというのもありかなと」。色も形態もさまざまで、どこかにいそうな昆虫に見える架空の虫たちが標本箱に並ぶ。紙粘土や樹脂粘土、紙、木、皮毛などの素材で精緻に作られている。

 「人の心は虫に似ている。さみしさとか嫉妬心というのは知らないうちに心の中でふくらんでいって、気付いたら普段ならやらないようなことをしてしまったりする。一方で(そうした感情を)悪いとは思っていなくて、弱さというのは絶対に心の中にある」

 「嫉妬心の標本」(一五年)には背中に嫉妬を表す赤いつぶつぶを持った虫たちが並ぶ。近作の「道化を宿す弱虫」(一七年)は、道化を演じているうちにそれが実際に張り付いてしまった虫だ。作品には人の心の観察があり、虫の形で標本になることで、それが相対化されているよう。

 「人はどのみち弱くて、どろどろしている。ネットでは、ちょっとしたことですぐ炎上したりとか、汚い弱い部分があったら叩(たた)いたりするが、それが嫌で。人間は弱くて、汚い部分もある。それを肯定したい」と川越さん。作品には「弱さがあって標準、それを認めあえる世界になれば」という願いも込められている。

 個展は同美術館が若手作家を紹介する「アペルト」シリーズの一環。九月二十四日まで。無料。

 

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