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北陸文化

【映画】自らの役者人生重ね熱演 「最後の映画のつもり」ほぼ全編能登で撮影

自らの役者人生が重なる新作「海辺のリア」について語る仲代達矢さん=金沢市内のホテルで

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 「認知症になった私がモデルではないのか」−。日本を代表する俳優仲代達矢さん(84)が、脚本を読んでそう思ったという映画「海辺のリア」。仲代さん演じるかつて演劇、映画で活躍した大スター桑畑兆吉は、家族に裏切られ、認知症の疑いで入れられた高級老人ホームから遁走(とんそう)する。連れ戻そうとする家族と絶えずすれ違う、会話にならない会話劇が、「人が人生を全うする物語」を紡ぐ。公開を前に金沢市での会見で「これが最後の映画というつもりで演じた」と語った仲代さん。画面からもその気迫がみなぎる。 (松岡等)

映画 海辺のリア 仲代達矢さん

 「春との旅」「日本の悲劇」に続き、仲代さんのために書かれたとしか思えない小林政広監督のオリジナル脚本。ほぼ全編を、仲代さん主宰の「無名塾」が拠点の一つにしてきた石川県の能登半島で撮影した。社会問題としてクローズアップされる認知症を、仲代さんはどう演じたか。

 「最近、固有名詞を徹底的に忘れる。自分も認知症になったかなと。そうではないんだろうけど、苦労はしなかった。ぼやーっとしてればいいなと思って」

 千里浜海岸(石川県羽咋市)をさまよい歩く兆吉と、兆吉を裏切った長女(原田美枝子さん)、その夫でもあるかつての弟子(阿部寛さん)、兆吉が別の女に生ませた娘(黒木華さん)らとのやりとりは常にちぐはぐだ。「(映画では)自分の娘に『あんた、どちらさん?』って聞くわけですから、あそこまでいくと、人間ってすごい。家族ら周りには迷惑をかけますけど、すごい自由感があるんじゃないかと思う」。深刻にも思えるテーマだが、家族の裏切りも、兆吉の犯した過去の罪も、かみ合わない会話が重なるごとに、どこかユーモラスに見えてくる。

 「俳優は、自を他に扮(ふん)するものなのだけれど、(今回は)何にも扮していなかったという感じがする。何の苦労もなく、楽しく演じられた」「ヨーイ、スタートからカットまで、好きなようにやらせてもらい、うまく演じようとか、そんなことはあまりなかった」と仲代さん。「基本的に監督は『喜劇』として捉えている。楽しい老後を明るく全うしているというか。お客さんがいろいろな角度から見てもらいたい」

 「桑畑」という姓は、仲代さんが出演した黒沢明作品「用心棒」、その続編ともいえる「椿三十郎」で三船敏郎さん演じた浪人の名前にちなむ。小林監督の仲代さんのキャリアへのオマージュがひそむ。

 小林薫さんを含め出演は五人だけ。その中で仲代さんは、初共演の黒木さんの演技を「舞台出身ということで親近感を持ったが、演技もうまいし、新鮮。突っ込むとこう受けるというのが二人の役者の芝居だが、いくら一生懸命しゃべっても、こちらは(認知症だから)そらしちゃう。難しい役を見事にやった」と絶賛。「『映像ばかりじゃなく、原点の演劇をやれよ』と言っておきました」とも。

 映画のラストで海を背に「リア王」のせりふを語り続ける兆吉の姿は数多くのシェークスピア劇を演じ、役者としての人生を全うしようとする仲代さんの姿と重なり、感動的だ。「八十四歳になってこうして新しいものにぶつかり、幸せな役者人生だと思っています」

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 石川県では六月三日からシネモンド、シネマサンシャインかほく、イオンシネマ新小松で、富山県では同月二十四日からJMAX THEATERとやまで上映。

 

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