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北陸文化

緻密な線壮大な世界 池田学展 金沢21世紀美術館

新作「誕生」について語る池田学さん=金沢市の金沢21世紀美術館で

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 作品を楽しむために、観客は絵に近づいては遠ざかる動作を繰り返す。金沢市の金沢21世紀美術館で開かれている「池田学展 ThePen−凝縮の宇宙−」。一本の丸ペンとインクの緻密な線描だけで描いたとは思えない想像力あふれる自然と文明の壮大な世界。そこには、人をふっと和ませるような小さな物語が無数に描き込まれてもいる。 (松岡等)

 目玉は自作では最大という縦三メートル、横四メートルの大作「誕生」。米国ウィスコンシン州にあるチェゼン美術館の招きで三年にわたり滞在制作し、一日に十センチ四方ほどしか描けない細密な技法を積み重ねた。21美では絵画の大規模個展は初めてというが、壮大なイメージの作品は天井高十メートルを超える展示室でも見劣りしない。

 がれきの上で波に洗われる巨木。その枝は大きく広がり、その先は明るい色調で花が咲き乱れている。東日本大震災を経て、破壊と再生、絶望から希望への願いがテーマになっていることは明らかだ。

【上】《予兆》 190センチ×340センチ、2008年 株式会社サステイナブル・インベスター(神楽サロン)蔵【下】《再生》 162センチ×162センチ 2001年 浜松市美術館蔵

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 巨大な波が社会をのみ込んでいるようにも見える「予兆」(二〇〇八年)が津波を想起させると、国内では公開が自粛されてきた。「人を喜ばせようとした作品が人を悲しませるとは思ってもいなかった」

 だから、滞在制作が決まった時に震災を描くことは必然でもあった。多くの作品同様、「誕生」も下部のがれきや波の下部から描き始めた。うねるように伸びる巨木。その合間に、電車や看板、ラクダのキャラバン、円空仏に飛行機…など無数の事物があふれる。

 華やかで希望を感じさせる花々の花びらは一つ一つが小さなテントでできている。仮設住宅がイメージにあったことを池田さんは隠さない。その花の中心には生命の誕生も描き込んだ。制作した三年の月日の中で二女、三女が生まれ、敬愛していた友人が亡くなり、自らは利き腕に大けがをした。そうした生と死のドラマも絵の細部に潜ませた。

 池田さんは一九七三年、佐賀県生まれ。ペンとインクによる短い線だけで描ききる技法は東京芸術大の卒業制作で描いたモノクロの「巌ノ王」(一九九八年)で既に確立した。その後のさまざまな動物を描いたシリーズなどを見ても、描写力は圧倒的だ。

 大学卒業後にアジアを旅して着想し初めてカラーインクを使った「ブッダ」(二〇〇〇年)、沈んだ軍艦をサンゴが覆う「再生」(〇一年)、天守閣が何層にも連なる巨大な城とその隙間に描き込まれる時空を超えた人々の動きが想像をかき立てる「興亡史」(〇六年)など。画業の全貌を紹介する約百二十点の作品群は見飽きることがない。七月九日まで。

 

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